フリーランスとして仕事を受けるとき、「発注書が来たけれど、納期と報酬の書き方が曖昧」「途中で一方的に仕事を減らされたらどうする?」と不安になることがあります。2024年11月1日にフリーランス・事業者間取引適正化等法が施行され、発注事業者には取引条件の明示や報酬の支払などに関するルールが設けられました。
大切なのは、法律があるから安心と考えることではなく、発注書やメールを受け取った時点で、確認できる条件を自分でも照合することです。この記事では、対象になり得る取引、発注書で見る項目、30日ルールと7つの禁止行為、困ったときの記録と相談先を整理します。
フリーランス新法は誰と誰の取引に関係するか
法律上のフリーランスは、業務委託の相手方で、従業員を使用しない個人などを指します。発注者側も、個人事業者か法人か、従業員や役員の状況によって区分されます。自分で「フリーランス」と名乗っているかだけで適用関係を決めず、実際の契約相手と従業員の有無を確認します。
| 確認する立場 | 見るポイント | 迷いやすい点 |
|---|---|---|
| 受注者 | 従業員を使用していない個人等か | 屋号や法人名だけで判断しない |
| 発注者 | 個人事業者・法人、従業員や役員の状況 | 相手が個人なら必ず同じ義務になるとは限らない |
| 委託の内容 | 物品の製造、役務の提供など何を頼まれたか | 雇用契約か業務委託かを混同しない |
雇用契約で働く人の労働条件は労働法の枠組みで確認します。業務委託でも、実態が働き方の指揮命令や拘束を伴う場合は、契約名だけで判断できない論点があります。契約の呼び名と実際の働き方がずれているときは、労働局などへ相談します。

発注書・メールで最初に確認する8項目
発注事業者は、フリーランスへ業務委託をした場合、直ちに書面または電磁的方法で取引条件を明示する必要があります。口頭だけでは足りません。契約書という名前でなくても、必要事項がそろった発注書、メール、特定の相手へ送るチャットなどで確認できます。
- 発注事業者とフリーランス、それぞれの名称
- 業務委託をした日
- 依頼された給付や役務の内容
- 納品日または役務を提供する期日
- 納品場所または役務を提供する場所
- 検査を行う場合の検査完了期日
- 報酬の額と支払期日
- 金銭以外で支払う場合の支払方法
「別紙の契約書に書いてある」と言われても、実際にその別紙を受け取って内容を確認します。報酬の計算方法、修正回数、素材費や振込手数料の負担、検収の基準など、法律上の明示項目以外にも仕事の負担を左右する条件があります。

報酬の支払は原則60日以内
発注事業者は、給付を受領した日、または役務の提供を受けた日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に、報酬の支払期日を定め、その期日までに支払う義務があります。納品後に「社内処理が終わってから」「売上が入ってから」と無期限に先延ばしする条件になっていないか確認します。
再委託の場合は、元委託者から支払を受ける期日を基準に、一定の条件を明示したうえで30日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定める例外があります。30日という数字だけをすべてのフリーランス取引に当てはめず、再委託の要件と明示事項を確認します。
| 発注書で見る欄 | 確認する質問 |
|---|---|
| 受領・役務提供日 | いつを起算日にするか |
| 支払期日 | 固定日か、納品から何日後か |
| 検査・検収 | 検査完了日が明示されているか |
| 再委託 | 元委託者と元の支払期日が示されているか |

1か月以上の委託で確認する7つの禁止行為
フリーランスに対して1か月以上の業務委託をする場合、発注事業者には、受領拒否、報酬の減額、不当なやり直しなどの7つの禁止行為があります。取引期間や委託の内容によって適用条件が変わるため、気になる対応を記録し、すぐに「違法」と断定するのではなく相談窓口へ確認します。
| 禁止行為 | 受注者が確認する場面 |
|---|---|
| 受領拒否 | 契約どおり納品したのに受け取らない |
| 報酬の減額 | 合意後に一方的に単価を下げる |
| 返品 | 責任がないのに納品物を返される |
| 買いたたき | 通常必要な費用を考慮せず著しく低い額を求められる |
| 購入・利用強制 | 指定商品やサービスの購入を迫られる |
| 不当な利益提供要請 | 無償作業や協賛などを求められる |
| 不当なやり直し | 受注者の責任がないのに無償修正を繰り返す |
発注者側の都合で内容や納期が変わった場合は、追加作業の範囲、料金、納期をメッセージで合意し直します。口頭で指示された変更をそのまま進めず、「変更点と追加費用を確認したい」と短く返すことが、後の行き違いを減らします。

「30日ルール」は中途解除や更新停止の予告
6か月以上の期間で行う業務委託について、発注事業者が中途解除したり、更新しないことにしたりする場合は、原則として30日前までの予告が必要です。受注者から理由の開示を請求した場合、発注事業者は原則として理由を開示します。
これは、すべての仕事を30日前に断れないという意味でも、短期の単発案件に一律で適用されるという意味でもありません。契約期間、更新の有無、継続的な委託か、中途解除の理由と例外を契約書と公式情報で確認します。
- 契約開始日と終了日、更新条項
- 6か月以上の委託に当たるか
- 解除・更新停止の予告日と解除日
- 理由開示を請求する方法と記録

育児・介護への配慮とハラスメント相談体制
一定期間以上の継続的な業務委託では、妊娠・出産・育児・介護と業務の両立に対する配慮が必要になる場合があります。また、発注事業者にはハラスメント対策のための相談対応などの体制整備が求められます。
相談窓口を使うときは、誰に、いつ、何を相談したか、契約を解除されるなどの不利益な扱いがあったかを記録します。相談しただけで必ず契約が続く、報酬が回収できると保証されるわけではありませんが、記録があれば相談先が事実関係を確認しやすくなります。

条件に違和感があるときの記録と伝え方
保存するのは、契約書だけではありません。発注時のメッセージ、納品データ、修正指示、請求書、入金記録、電話後の確認メールを同じ案件フォルダーに入れます。チャットが消えるサービスでは、重要なやり取りをPDFやスクリーンショットで保存し、日時と相手が分かるようにします。
本日のご指示について、納品物はA、納期はB、報酬はC円、追加修正は別途相談という理解です。相違があればご指示ください。
支払期日が過ぎた、合意後に報酬を下げられた、無償の作業を求められた場合は、事実と希望を分けて伝えます。「いつの発注で、何を納品し、いつ支払う条件だったか」「確認したい支払日や追加費用は何か」を短く書くと、感情的な応酬を避けやすくなります。

相談先と、法律を使わない選択肢
フリーランス・事業者間取引適正化等法の取引適正化は公正取引委員会や中小企業庁、就業環境の整備は厚生労働省が主に担当します。公正取引委員会の相談窓口、厚生労働省のフリーランス・トラブル110番など、相談内容に合う窓口を選びます。雇用契約に近い働き方の問題は、労働局の総合労働相談コーナーも候補です。
相談や交渉に時間をかけるより、契約を更新しない、単価や範囲が明確な別案件へ移る、仲介サービスを使う、専門家へ依頼するという選択もあります。法律を根拠に強く争うことだけを正解にせず、生活費、未払い額、今後の仕事、心身の負担を比べて次の行動を決めます。

発注書を受け取った週にやること
- 当日:契約相手、業務内容、納期、納品場所、報酬、支払期日を確認する。
- 2日目:検査・修正・追加作業・費用負担・解除条項を質問する。
- 3日目:合意した条件をメールでまとめ、発注書と一緒に保存する。
- 4〜5日目:納品物の基準と作業時間を記録し、変更は都度確認する。
- 週末:支払予定日、相談先、更新しない場合の期限をカレンダーへ入れる。
発注書に必要な情報がないときは、作業を始める前に質問します。すでに作業中でも、追加指示を受けた時点で条件を確認し直せます。
よくある疑問
契約書があれば発注書は不要ですか?
契約書で必要な明示事項をすべて示しているなら契約書で確認できる場合があります。ただし、書面の名前ではなく、業務内容、納期、報酬、支払期日などが実際に明示されているかを見ます。
30日以内に必ず支払われる法律ですか?
一般の受領から支払までの原則は60日以内です。再委託で必要事項を明示した場合に、元委託の支払期日から30日以内とする例外があります。30日前予告は、主に6か月以上の継続的委託の中途解除・更新停止に関する別のルールです。
違反だと思ったら仕事を止めてよいですか?
契約内容、納期、損害、生活費を確認せずに一方的に止めると、別のトラブルになる可能性があります。証拠を保存し、追加作業や支払について書面で確認して、相談窓口や専門家へつないでください。
発注書を「受け取って終わり」にしない
フリーランス新法で変わったのは、受注者が一人で我慢するしかない状況を減らすための、明示・支払・禁止行為・就業環境に関するルールです。適用条件は取引期間や相手の区分で変わるため、30日や60日という数字だけで判断しません。
今日できることは、最新の発注書を開き、業務内容、納期、報酬、支払期日、修正条件の5点に印を付けることです。不明な箇所を一つのメッセージにまとめ、送信前に契約と記録を残せる形へ整えてください。
参考:公正取引委員会 2025年フリーランス法特設サイト、厚生労働省 フリーランス・事業者間取引適正化等法、厚生労働省 就業環境整備のポイント、公正取引委員会 Q&A
