会社を辞めて個人事業主になった美咲さんは、年末に届いた書類を前に手が止まりました。「会社員のときは年末調整だったけれど、個人事業主にも年末調整はあるの?」と迷ったからです。
個人事業の売上には、会社員の給与のような年末調整はありません。事業の収入と必要経費から所得を計算し、必要に応じて自分で確定申告します。ただし、年の途中まで会社員だった人は、会社から受け取った給与分の源泉徴収票を確定申告で使います。
個人事業主に年末調整はない?まず結論を整理
年末調整は、給与を支払う会社などが、従業員の給与からあらかじめ差し引いた所得税と、その年に納めるべき税額を精算する手続きです。国税庁は、原則として「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人が対象と説明しています。

個人事業主が自分の事業について行うのは、年末調整ではなく、収入や必要経費を整理して所得税の確定申告をすることです。事業の売上から必要経費を差し引いた金額が、事業所得を計算する出発点になります。
| 区分 | 誰が何をするか | 主な資料 |
|---|---|---|
| 年末調整 | 給与の支払者が給与所得の税額を精算 | 扶養控除等申告書、給与の記録 |
| 確定申告 | 本人が所得と税額を計算して申告 | 帳簿、領収書、各種控除資料 |
| 源泉徴収票 | 給与の支払者が給与の支払額と源泉税額を交付 | 給与所得の源泉徴収票 |
「個人事業主だから年末に何もしない」でも、「売上があれば必ず同じ申告をする」でもありません。給与があったか、事業所得がいくらか、源泉徴収された税金があるかを分けて確認します。
会社員から個人事業主になった年の考え方
1年の途中で退職して開業した場合、その年には給与所得と事業所得が同時にあることがあります。勤務先から受け取った給与は給与所得として、個人事業の収入は事業所得などとして、確定申告でそれぞれ整理します。

退職した会社で年末調整が行われるとは限らない
年の途中で退職し、その年の年末に同じ会社に在籍していない場合、勤務先で年末調整が行われないことがあります。年末調整の有無にかかわらず、会社から給与所得の源泉徴収票を受け取り、給与の支払金額と源泉徴収税額を確定申告へ入力します。
退職前に会社で年末調整を受けていた場合でも、その後の事業所得などを申告する必要があれば、給与分を含めて確定申告します。年末調整済みの給与は、源泉徴収票に記載された内容を使い、同じ控除を重ねて入力しないようにします。
たとえば、4月まで会社員で5月から開業した場合は、1月から4月までの給与と、5月以降の事業の売上・経費が同じ年分に存在します。会社員の期間だけで税金の精算が終わったと思わず、開業後の所得を加えて年分全体を確認することが大切です。反対に、開業届を出した日だけで給与所得が事業所得へ変わるわけではありません。
年内に給与がなかった場合
開業した年に給与を受け取っていなければ、給与所得の源泉徴収票を使う場面はありません。事業の収入、必要経費、青色申告か白色申告か、所得控除などを整理し、確定申告が必要かを判断します。
源泉徴収票は個人事業主に必要?
源泉徴収票は、個人事業主としての売上を証明する書類ではありません。会社などから受け取った給与について、支払金額や源泉徴収された所得税額を確認するための書類です。

取引先から受け取る報酬の一部が源泉徴収される仕事もあります。この場合の源泉徴収は、支払者が報酬の支払い時に所得税などを差し引く仕組みで、会社員の年末調整とは別です。確定申告では、売上を収入として計上し、差し引かれた税額を源泉徴収税額として確認します。
すべての個人事業の報酬が源泉徴収されるわけではなく、対象となる報酬の種類や支払者によって扱いが変わります。請求書の控えだけで判断せず、支払明細や取引先の説明、国税庁の対象範囲を確認してください。
報酬から税金が差し引かれていると、納税がすべて終わったように見えることがあります。しかし、源泉徴収は支払い時に先に納める仕組みであり、年間の所得と最終的な税額を確定させる手続きとは別です。事業の利益が少なく源泉徴収額が多い場合は、確定申告によって還付になることもあります。
給与所得と事業所得を混同しないための比較
会社員の給与と個人事業の売上は、同じ「収入」でも所得の計算方法が違います。確定申告書を作るときは、給与の支払金額と事業の売上を一つの箱に入れず、区分ごとに記録します。

| 確認する点 | 給与所得 | 事業所得 |
|---|---|---|
| 収入の記録 | 勤務先の源泉徴収票 | 売上帳、請求書、入金記録 |
| 経費の扱い | 給与所得控除の計算 | 業務に必要な支出を必要経費として整理 |
| 税額の精算 | 勤務先の年末調整、必要なら確定申告 | 本人が確定申告で計算 |
| 確認する相手 | 勤務先の給与担当 | 税務署、税理士、記帳支援窓口など |
自宅の通信費や家賃など、生活と事業の両方に関係する支出は、全額を機械的に経費にできるとは限りません。業務で使った部分を合理的に区分し、按分の根拠を残します。所得税や住民税など、事業経費にできない税金もあるため、迷う支出は保留欄に置いて確認します。
事業所得を計算するために年末までに整理するもの
国税庁の説明では、事業所得の金額は総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。金額だけを集計すると、未入金の売上や年をまたぐ費用を落とすことがあるため、取引日、相手、内容、金額、入金・支払状況を記録します。

- 売上の請求書、契約書、入金記録
- 仕入れや外注、通信、交通、消耗品などの領収書
- 事業用口座と現金の動き、未入金・未払いの取引
- 家事関連費を事業分と私用分に分けた基準
- 青色申告決算書または収支内訳書に必要な集計
青色申告を選ぶ人は、帳簿の付け方や保存する書類、青色申告承認申請書の期限を確認します。青色申告特別控除などの扱いは、記帳方法や申告書類の提出状況で条件が変わるため、「青色なら自動的に控除される」と考えないようにします。
確定申告が必要かを判断する順番
確定申告の要否は、開業届を出したかどうかだけで決まりません。所得の種類と金額、源泉徴収や予定納税の有無、控除の状況を確認します。申告義務がない場合でも、源泉徴収された税額が多ければ還付申告をできることがあります。

- 年内に給与を受け取ったか。受け取った場合は勤務先ごとの源泉徴収票をそろえます。
- 事業の総収入と必要経費を集計する。売上と入金、経費と支払いを照合します。
- 源泉徴収された報酬や予定納税があるか確認する。支払明細などを保存します。
- 青色申告・白色申告や所得控除を確認する。最新の国税庁案内で条件を確かめます。
- 確定申告書を作成し、納付または還付の結果を確認する。不明点は税務署や専門家へ相談します。
税額は、売上の大きさだけでなく、必要経費、所得控除、ほかの所得、源泉徴収額などで変わります。売上が少ないから申告不要、源泉徴収されているから納税済み、と単純に決めず、年分の申告案内に沿って確認します。
申告しないと決める前に見る資料
申告しないと判断する前に、給与の源泉徴収票、報酬の支払調書や明細、事業の売上帳、経費の証拠書類を一度並べます。支払調書が手元に届かないことだけを理由に売上を記録しないのではなく、自分の請求書や入金記録とも照合します。
住民税や個人事業税など、所得税の確定申告とは別に確認が必要になる場合もあります。所得の種類、住所地、事業の内容で扱いが変わるため、所得税の申告だけで全ての地方税の疑問が解決すると決めつけないようにします。
e-Taxを使う前にそろえる資料
e-Taxは申告書作成を進める手段ですが、入力前の記録が自動で正しくなるわけではありません。給与所得の源泉徴収票、事業の集計、各種控除の証明書、本人確認に必要な情報を先にまとめます。

マイナポータル連携で取得できる給与情報を使う場合も、会社が源泉徴収票を税務署へ提出している時期などによって利用可能になる時期が異なります。手元の源泉徴収票と表示情報を照合し、数字や年分が一致しているか確認します。
税務署や専門家へ相談したほうがよい場面
会社員と個人事業主の期間が混在する、複数の事業を行う、報酬の源泉徴収がある、家事関連費を按分する、青色申告の期限が分からない、といった場合は、早めに相談すると記録を作り直す負担を減らせます。

相談時には、源泉徴収票、売上と経費の集計、請求書や支払明細、控除に関する資料、これまでの申告書の控えを持参します。個別の税額や申告義務は事情によって変わるため、一般的な記事だけで最終判断せず、国税庁、税務署、税理士などへ確認してください。
年末に行うことは、年末調整の書類を探すことだけではありません。給与があった人は源泉徴収票を保管し、個人事業の記録は帳簿と取引資料で整理します。次の一週間は、給与の源泉徴収票を確保し、事業の売上・経費を月別に並べるところから始めると、確定申告の準備が具体的になります。
参考:国税庁「No.2662 年末調整のしかた」、国税庁「収入金額等、所得金額を計算する」、国税庁「No.2210 必要経費の知識」、国税庁「No.2070 青色申告制度」、国税庁「No.2030 還付申告」(確認日:2026年9月18日)
