金曜22時43分。高瀬美咲さん(仮・47歳)は「AI副業」と検索し、〈初心者でも月10万円〉という見出しを三つ続けて閉じた。欲しいのは十万円ではない。老後用の口座へ、毎月あと一万円を移せたらと思っている。
都内のIT企業で営業事務をしている。表の列がずれていれば気づく。担当が休んでも注文が止まらない手順書を作る。月末には、営業五人が別々の名前で保存したファイルを一つへ戻す。職場では何度も頼られてきたのに、「それを誰かへ売る」と考えた途端、自分には何もない気がした。
家賃更新をきっかけに老後の不足額を三通りで試したとき、節約だけでは動かせない線が見えた。月一度の友人との夕食は削りたくない。今の会社もすぐ辞めたいわけではない。だから、美咲さんが欲しいのは「人生を変える副業」ではなく、今の仕事の外に、小さな受け皿を一つ作ることだった。
美咲さん「一万円なら、AIで週末に作れば届くと思ったんです」
橘「一万円は売上ですか。手数料を引いた後ですか」
美咲さん「老後口座に入る額です。……その二つ、同じじゃないんですね」
月一万円は、小さい目標ではなかった
家計へ一万円を残すには、売上が一万円あればよいとは限らない。案件サービスの手数料、振込費用、有料ツール、作業のために買った物、将来の納税等に分けておく金額を先に外す。仮に一件4,000円、サービス手数料が20%、固定費が月2,000円、残額の15%を別に取っておくなら、三件売っても家計へ残るのは一万円を下回る。
売上
発注者が払う金額。入金額でも、家計に残る額でもない。
手数料・固定費
サービス、振込、AI、素材、通信、道具。無料期間後の料金も見る。
分けておく額
納税等に備えて使わず分ける割合。税額そのものを一律には決めない。
見えない時間
応募、質問、修正、請求、記録。制作時間だけで時給を出さない。
美咲さんは「月一万円」を下げなかった。代わりに、最初の30日から達成条件を外した。初月のゴールは、試作品を一つ作り、他人の反応を一つ受け、実際に使った時間を残すこと。お金は二か月目以降に判断する。
土曜9時10分、最初に見つかったのは届出書だった

新しいAIサービスへ登録する前に、美咲さんは会社の就業規則を開いた。副業の章には、業務内容、契約先、予定時間を書く届出書があった。禁止ではなかったが、競合、情報管理、本業への支障を確認する欄がある。ネットの「会社員でもできる」より、自分の雇用契約と規則の方が先だった。
厚生労働省の副業・兼業の案内には、ガイドライン、モデル就業規則、労働時間通算の資料がまとまっている。ただし、美咲さんの会社で何を出すかは会社の規則で決まる。別の会社へ雇用される働き方と、成果物を納める業務委託も同じではない。
- 勤務先許可・届出・申告不要、競合、勤務時間、会社端末と資料の扱い。
- 使える時間平日夜ではなく、疲れていない土曜朝90分と日曜60分を先に確保。
- 損失上限初期費用3,000円。有料講座、年払いツール、広告はまだ買わない。
- やめる条件睡眠を削る、月一度の夕食を断る、本業でミスが増えるなら止める。
副業の時間を「空いた時間」と呼ぶと、平日の深夜まで広がる。美咲さんは一週間三時間と決めた。月十二時間。そこへ応募も経理も含める。納品に十二時間使えるわけではない。
「AIで何か」から、誰の何分を軽くするかへ

副業は、AI、ブログ、動画編集のような流行語から選ぶと、学ぶことが先に増える。美咲さんは、本業で過去一か月に三回以上した作業を書いた。表の項目をそろえる。長いメールを手順へ直す。入力漏れを探す。担当者が休む前に、次の人が迷う場所へ印を付ける。
経験をサービスにする
オンライン事務、表計算、資料整理、校正。相手ごとの約束と修正がある。
小さな制作物を売る
テンプレート、チェックリスト、教材。作る前に使う人と利用場面を確かめる。
媒体を育てる
ブログ、動画、ニュースレター。公開後も更新と集客が続き、収益化まで時間が要る。
技能を増やす
自動化、デザイン、語学、資格。講座名より、終わった後の成果物を先に決める。
選んだのは、小さな店舗向けの在庫確認表と一枚の手順書だった。営業事務の経験に近く、架空データで試せる。AIは手順書の見出し候補と、初めて使う人が迷いそうな箇所の質問出しに使う。数式、入力規則、動作確認、最終文は自分で見る。
AIへ入れない箱を、机の左に作った

本業の受注管理表を匿名化して使う案は捨てた。顧客名だけ消しても、商品体系、価格、処理順、取引条件は会社の情報だ。勤務先で作った書式を持ち出してよいとも限らない。個人情報保護委員会の生成AIサービス利用時の注意喚起を読み、入力内容がどう扱われるかを利用規約でも確認した。
架空の花屋向けに必要な列の候補を出す/説明が抜ける箇所を質問させる/長い説明の順番を三案にする
数式と入力規則/実際の操作順/似た作品や素材の権利/納品条件/出力に混ざった事実でない内容
会社・顧客の資料/氏名・連絡先/非公開の価格や売上/契約で入力を禁じられた情報/他人の制作物そのもの
「AIで作ったから自由に売れる」とも決めない。文化庁はAIと著作権に関する考え方や確認資料を公開している。美咲さんは、特定の既存テンプレートに似せる指示を使わず、素材の利用条件と出力の類似を納品前に見直す欄を作った。
30日は、売る日ではなく迷いを減らす日だった

案件を二十件読む
応募はしない。「表を整える」案件で、納品形式、修正、連絡方法がどこまで書かれているかだけを見る。
困り事を五つに絞る
在庫数が更新されない、発注点が分からない、入力者で表記が変わる、引継ぎがない、スマホでは読みにくい。
架空の花屋を作る
商品十二件、入荷と販売の架空数字、発注目安だけ。実在店舗のデータは使わない。
最小版を完成
表一枚と手順一枚。自動化を増やさず、入力、色の意味、壊したときの戻し方を先にする。
一人に触ってもらう
月一度会う友人へ、説明せず渡した。発注の色は分かったが、数式のある列へ入力しそうだと言われた。
守る場所を変える
数式セルを保護し、解除が必要な場面を手順書へ。見栄えではなく、壊れにくさを一回改善。
提案を二件送る
「何でもできます」をやめ、似た困り事の二件だけへ、試作品と確認したい三点を添えた。
受注はゼロ
使った時間十一時間四十五分、費用ゼロ、試作品一件、反応一件、提案二件。もう一か月試すと決めた。

友人「この色、何をしたら消えるの?」
美咲さん「そこ、説明に書いたつもりだった」
友人「読む前に触る人もいるよ。私みたいに」
美咲さん「それなら、表の方で迷わないようにする」
反応は褒め言葉でなくてよかった。「分からない」が一つ見つかれば、次の修正ができる。美咲さんは受注ゼロを隠さなかった。応募文、試作品、使用時間が残り、何を売らないかも決まったからだ。
自分の30日と、月一万円の必要売上を作る
下の実験メーカーは、今ある経験から試作品候補を三つ出し、四週間の行動と必要売上を同じ画面へ置く。税額や成功率は判定しない。入力内容は保存・送信しない。
30-DAY EXPERIMENT
副業30日実験メーカー
売上より先に、時間・損失上限・試作品・家計へ残す額をそろえます。
YOUR 30 DAYS
診断結果
試作品の候補
一度に作るのは、この中から一つだけです。
案件サービスを見るのは、試作品が一つできてから
登録前に決めるのは「有名なサービス」ではなく、どんな取引を試すかだ。募集済み案件へ提案するクラウドソーシング、自分のサービスを出品するスキル販売、企業の継続業務を探す副業求人、知人等と直接契約する方法では、営業、手数料、支払、トラブル対応が違う。
募集へ提案する
案件サービスの条件比較で、手数料、仮払い、検収、修正、退会後の記録を確認する。
技能が一つ足りない
講座を成果物から比較し、受講後に何を一つ完成させるか決める。
本業の経験を言えない
一場面の経験翻訳台で、担当・判断・行動・変化を一件作る。
失敗を先に試したい
副業30日ブラウザゲームで、美咲さんの選択と分岐を体験する。
AIツール、講座、案件サービス、会計サービスを同じ場所で一括訴求しない。試作品を作る人には必要な制作道具、技能不足が分かった人には講座、取引を始める人には案件・会計という順に分ける。広告報酬の高さで順番は変えない。
二十件を眺めた後、提案する二件をどう残したか
美咲さんは報酬額の高い順に並べなかった。まず、納品物が一文で言えるかを見る。「事務を幅広くお手伝い」では作業の終わりが分からない。「既存の表を指定項目へ整理し、一枚の操作説明を付ける」なら、自分の試作品と比べられる。次に、必要なソフト、連絡時間、初稿日、修正回数、素材の支給方法を読む。
近い一場面
本業の社名を出さず、表記揺れを整理し、別担当が使える手順を残した経験を一件。
見せる試作品
架空データで作った在庫確認表。依頼データを受け取る前に、操作と数式を確認できる。
先に聞く三点
元データの形式、変更してはいけない列、完了を判断する人。分からないまま価格を出さない。
約束できる時間
土曜90分と日曜60分。平日即時返信や当日納品を、受かるためだけに約束しない。
提案文は「丁寧に対応します」から始めず、相手の依頼を自分の言葉で一文にした。次に近い経験、試作品、確認したいこと、返せる日を書く。AIへ募集文を貼って大量の提案文を作らせるのではなく、固有名詞と秘密を除いた後、自分が見落とした確認項目を尋ねるために使った。
二十件のうち、十件は求められるソフトが違った。五件は平日日中の会議が必須。三件は作業範囲が読めなかった。残った二件だけに送った。この絞り込みを「応募できなかった十八件」と数えると苦しくなる。「自分の土曜90分では受けない条件が分かった十八件」と記録すると、次の検索が短くなる。
途中、案件紹介より先に有料サポート契約を勧める画面もあった。美咲さんは内容を読んだが、初期費用3,000円という自分の上限へ戻って閉じた。高額だから一律に悪いのではない。仕事を探していたはずなのに、先に教材やサポートを買う話へ目的が変わったからだ。学ぶなら、試作品のどこが足りないか分かってから選ぶ。
最初の取引は、金額より「終わり」を文字にする
一件目で怖いのは、報酬が低いことだけではない。どこまで直せば納品なのか、いつ検収が終わるのか、追加作業をどう決めるのかが曖昧なことだ。短い募集文だけで作業を始めず、メッセージや契約画面に残す。
- 納品物ファイル形式、個数、含む作業、含まない作業。
- 日程着手、初稿、質問への回答期限、納品、検収、支払。
- 修正回数、範囲、追加料金、依頼内容が変わった場合。
- 権利と情報著作権、実績公開、秘密保持、受け取ったデータの削除。
- 連絡使う手段、返信できる時間、緊急連絡の条件。
- 終了キャンセル、途中終了、成果物の扱い、記録を保存する期間。
実際の取引では、売上、サービス手数料、振込費用、ツール代、交通費などを分け、領収書や取引記録を初日から残す。「20万円」は売上の免税ラインではない。国税庁の給与所得者で確定申告が必要な人の案内でも、給与以外の所得や還付申告など条件が分かれる。住民税を含め、自分の働き方と所得で確認する。
月一万円より先に、土曜の90分が残った
30日目の夜、美咲さんは老後用口座へ一万円を移せなかった。売上がなかったからだ。それでも、検索画面を閉じた金曜日とは違った。自分が売れるかではなく、壊れにくい表を作れるか。AIを使えるかではなく、誰かの迷う場所を一つ減らせるか。次に確かめる問いが小さくなった。
橘「あと一か月続ける理由は、どこにありますか?」
美咲さん「二件送って、書類を見てもらえたのは一件です。受注はありません。でも、表を直した時間より、募集を探す時間の方が長かった。それを半分にできるか、もう一度だけ試します」
橘「やめる理由も残っていますか?」
美咲さん「土曜の90分を越える納期しかないなら、これは私の副業じゃないです」
次の七日で行うのは三つ。試作品へ「数式を壊さず使えるか」の確認手順を足す。応募先を表整理の案件だけに絞る。三十分探して候補がなければ、その日は制作へ戻る。新しいAI契約も、高額講座も、まだ買わない。
副業は、守りだけの家計にもう一本の線を引く選択肢になる。ただし、その線は「簡単に月十万円」からは始まらない。金曜22時43分に三つの画面を閉じ、土曜朝の90分を自分のために確保する。美咲さんの一万円は、そこからようやく現実の大きさになった。
最初の一歩を決めたら、続ける準備をする
副業を始める仕事と時間を決めたら、案件の条件、経費、収入の記録方法も先に整えておくと続けやすくなります。教材を選ぶ場合は、自分の経験や使える時間に合うか、発行日と内容を確認してから購入してください。
最初の副業案件を安全に小さく試す
副業を始めるなら、収入を保証する広告ではなく、仕事内容、納期、報酬、修正、契約、手数料を確認できる案件を一件だけ選びます。仕事マッチングサービスを使う場合も、本業の規則と生活時間を確認し、登録後に条件が変わる案件や先払いを求める案件は避けてください。
広告:ValueCommerce提携済み。会員登録の成果条件、報酬条件、案件ごとの仕事内容・納期・契約・支払条件は申込み前に公式案内をご確認ください。リスティング広告は禁止です。正社員求人や公的求人とは異なるため、働き方が合う案件だけを選んでください。
