37歳・佳奈さん|「割安」の一語で、二枚の順番を決めかけた
木曜の20時12分。小川佳奈さん(仮・37歳)は、ダイニングテーブルに二枚の販売図面を並べた。土曜に内見するAは4,180万円・43.2㎡。日曜のBは3,890万円・49.8㎡。スマートフォンには、不動産会社から「Bは坪単価で見るとかなり割安です」と届いている。
メーカーの人事で数字を扱う佳奈さんは、割り算なら迷いを終わらせられると思った。Aは約319.9万円/坪、Bは約258.2万円/坪。差は約61.7万円/坪。計算機の数字だけなら、Bを先に見るべきに見えた。
けれどBの図面の端には「現況渡し」。別紙には、キッチンと床の改修見積420万円。管理費、修繕積立金、インターネット設備料を足すと月3.45万円だった。Aは月2.55万円。佳奈さんは、Bの行に書きかけた「お得」を消した。
佳奈さん「坪単価が低いなら、広さのわりに安い。そこまでは合っていますよね」
編集長「同じ面積の測り方と、同じ価格の範囲なら、入口の比較には使えます」
佳奈さん「入口、ですか」
編集長「玄関で靴を脱いだだけです。部屋も、管理も、10年後もまだ見ていません」
坪単価の割り算は、三行で終わる
㎡から坪へ
面積㎡ ÷ 3.305785
価格を面積で割る
価格万円 ÷ 坪数
条件名を添える
壁芯・売出価格など
43.2㎡は約13.07坪。4,180万円を割ると約319.9万円/坪になる。ここで小数点まで出ても、物件の価値が小数点まで分かったわけではない。分子と分母の意味が違えば、精密そうな数字ほど誤解を強くする。
「約319.9万円/坪」だけで保存せず、「壁芯面積」「売出価格」と一緒に残す。どちらかが未確認なら、順位ではなく空欄を保存します。
最初に分母をそろえる|壁芯と内法は同じ43㎡ではない

マンションの販売図面では、壁の中心線で囲んだ壁芯面積が使われることがある。一方、登記簿の専有面積は壁の内側を測る内法面積だ。不動産適正取引推進機構の不動産売買の手引でも、登記簿の内法面積はパンフレット等の壁芯面積より少なくなると説明している。
壁芯
壁の中心線から測る。販売図面で見かける。専有面積の数字だけを写さず、欄外や面積表記の注記まで見る。
内法
壁の内側から測る。登記簿面積で使われる。同じ住戸でも壁芯より小さくなり、計算上の坪単価は高くなる。
さらに、国土交通省の不動産情報ライブラリ「制度と用語」では、中古マンション等の面積に登記簿の内法面積を使い、5㎡単位で切り上げて表示すると案内している。販売図面の43.2㎡と、公開データの「45㎡」を同じ精度だと思って割り、0.1万円/坪の差を論じてはいけない。
- 測り方壁芯か、内法か
- 対象専有部分のどこまでか
- 精度実数か、丸めた公開値か
次に分子をそろえる|価格札の外にあるお金

売出価格と成約価格は同じではない。売出価格に、仲介手数料、登記、ローン関係、税、保険、改修、設備がすべて含まれるわけでもない。不動産情報ライブラリの取引総額も、仲介手数料等の諸費用を含まない。だから「価格÷面積」の価格欄へ何を入れたかを記録する。
表示価格
まず広告上の価格を同じ条件で比較する。
取得時費用
仲介、登記、ローン、税等を見積書で分ける。
改修・設備
現況、工事範囲、入居までの期間も確認する。
毎月負担
管理費、修繕積立金、必須設備料等を足す。
全費用を一つの坪単価へ押し込む必要はない。表示価格の坪単価と、取得時までの既知額を面積で割った数字、毎月負担、将来の未確認を別々に残す方が、後から更新しやすい。
佳奈さんの二枚は、順位が一度入れ替わった

| 比較列 | 候補A | 候補B |
|---|---|---|
| 価格・面積 | 4,180万円・43.2㎡ | 3,890万円・49.8㎡ |
| 表示価格坪単価 | 約319.9万円 | 約258.2万円 |
| 取得時費用・改修 | 280万円・0万円 | 300万円・420万円 |
| 毎月の既知固定額 | 2.55万円 | 3.45万円 |
| 10年の既知支出小計 | 4,766万円 | 5,024万円 |
Bは表示価格坪単価が低い。それでも、仮置きした取得費、改修、10年分の毎月負担を足した小計はBが258万円高くなった。これはAの勝利ではない。住宅ローン利息、税、保険、将来の一時金、売却費用、残債、価格変動を入れていないからだ。通勤時間、部屋の形、収納、音、採光も金額にしていない。
佳奈さん「結局、全部入れないと比べられないんですね」
編集長「全部を一晩で埋めなくて大丈夫です。分かった数字と、分からない数字を混ぜないことが先です」
佳奈さん「Bが安い、から、Bは坪単価が低い。でも改修と月額は高い、へ言い直す」
編集長「それなら、内見で聞くことが見えます」

自分の二候補を、同じ比較票へ戻す
候補名や住所は入力しない。資料に書かれた数字と条件だけをA・Bへ写す。分からない費用を平均値で埋めず、0円と未確認を混同しないため、取得時費用や改修費の0は「見積で不要と確認した時」だけ使う。
坪単価を二枚の比較票へ戻す
表示価格の順位と、いま分かっている支出の順位を分けます。
診断結果
- 坪数
- 表示価格坪単価
- 初期既知額坪単価
- 毎月固定
- 期間内の既知支出
- 坪数
- 表示価格坪単価
- 初期既知額坪単価
- 毎月固定
- 期間内の既知支出
坪単価の差
既知支出の差
先にそろえる条件
内見・資料で埋める
保存用メモ
この小計が答えにしないもの
住宅ローンの金利・期間、税、保険、将来の修繕一時金、売却費用、残債、価格変動は計算していません。融資可能額、買ってよい価格、将来の売値も判定しません。次の購入全体の試算へ渡すための比較票です。
成約事例は「近い一件」ではなく、幅で見る
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、取引価格・成約価格を調べられる。地図では防災、都市計画、周辺施設も重ねられる。ただし、同じ駅名というだけの一件を「相場」と呼ばない。
市況が違う年を一列にしない。
沿線名だけでなく徒歩条件を見る。
極端に広い、古い一件を外す。
内法・5㎡丸めを前提に幅で読む。
佳奈さんは、同じ駅から徒歩10分前後、40〜55㎡、築年の近い中古マンションを複数表示し、最小と最大だけでなく中央付近をメモすることにした。物件広告と公開データで面積の測り方や価格の丸めが違うため、坪単価を小数点以下で競わせない。
安い一坪より、使える一畳が大切なこともある
同じ49.8㎡でも、長い廊下、柱の出っ張り、開かない扉、置けないベッドで使い方は変わる。バルコニーや共用廊下を、自分だけの居室面積のように足さない。面積が大きいことと、一人の生活に余白があることは同義ではない。
部屋で確かめる
- 家具寸法と動線
- 窓、音、におい、採光
- 収納と家事の往復
- 専有・共用の境界
資料で確かめる
- 管理規約・使用細則
- 総会議事録と滞納
- 長期修繕計画
- 積立金の改定と予定工事
歩いて確かめる
- 実際の駅までの道
- 朝夜と雨の日
- 買い物、医療、避難
- 用途地域と防災情報
国土交通省のマンション管理状況チェックシートは、専有・共用の範囲を管理規約で確認し、管理費・修繕積立金の変更や大規模修繕等が話し合われる総会議事録を見る入口になる。現在の月額だけを坪単価へ足しても、管理の履歴までは読めない。
物件検索と相談へは、空欄のある比較票を持っていく
物件検索サービスは、安い順へ並べるためだけに使わない。専有面積の基準、管理費・修繕積立金、権利、改修、引渡し、資料請求先が確認できる候補を集める。掲載終了や価格変更があっても、比較票の条件は残る。
物件を探す
条件を保存し、同じ面積帯・駅距離・築年の候補を集める。順位広告と検索条件を分ける。
仲介へ聞く
面積基準、価格に含む範囲、取得費、改修、管理資料を質問。回答と未回答を残す。
相談を比べる
相談料、仲介手数料、紹介範囲、ローン紹介、個人情報の送信先、営業連絡を確認する。
「無料相談」だけを理由に個人情報を送らない。誰の立場で、物件選び、資金計画、契約書、住宅ローンのどこまで扱うのかを先に見る。広告提携の有無が、候補物件の坪単価や評価を変えることはない。
佳奈さんは、二枚とも内見することにした

21時03分。佳奈さんは、Bのファイル名から「割安」を外した。代わりに、二枚それぞれへ面積基準、取得時費用、改修範囲、月額の改定履歴、長期修繕計画という五つの空欄を作った。
土曜のAも、日曜のBも予約はそのまま。翌朝はいつものランニングコースを少し変え、最寄り駅からAまで歩く。日曜はBの駅でスーパーと避難場所を確認する。坪単価の差は消えない。でも、その差だけで部屋へ入る順番を決める必要もなくなった。
佳奈さん「どちらが得か、まだ分かりません」
編集長「今夜分かったのは、数字が足りない場所です」
佳奈さん「それなら、内見で埋められます」
編集長「坪単価は、答えではなく質問を作れた時に役立ちます」
坪単価と購入費を深掘りする
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