高級店の扉は、重いわけではなかった。
重かったのは、その手前に立っている私のほうだった。
六本木駅から歩いてきて、もう店は目の前にある。中へ入ればいいだけなのに、「一人で来る人なんているのだろうか」と、店の前でもう一度足が止まる。
ここまで来て帰ったら、駅までずっと後悔する。
どりゃー。
心の中で声を出して、ウルフギャング・ステーキハウス六本木店の扉を開けた。

「あの、ひとりなんですが……」
入るなり、スタッフが迎えてくれた。
きれいな店内を見る余裕は、まだない。最初に口から出たのは、予約名でもコートを預ける言葉でもなく、言い訳のような一言だった。
「あの、ひとりなんですが……」
すると、「ハッピーアワーのご利用でしょうか」と聞かれた。
ハッピーアワー?
そのときの私は、何のことか分かっていなかった。知らないと言うのも恥ずかしくて、「普通に食事でお願いします」と答えた。
コートと荷物を預け、まだ食事客の少ない店内を歩く。バーでは何人かがお酒を楽しんでいた。柱の横のテーブルへ案内され、人目が少し遮られただけで肩から力が抜けた。
一人で来たことより、入る前から一人であることを気にしすぎていたらしい。

一人なのに、二名様用を選んでしまった
ジンジャーエールを頼み、メニューを開いた。
事前に調べていたのは、熟成肉のステーキとマッシュポテト。フィレもサーロインも食べてみたい。それを一度にかなえるTボーンステーキには、はっきり「2名様用」と書いてあった。
普通なら、ここで一人前のサーロインを選ぶ。
でも、せっかく緊張を越えて店に入ったのに、いちばん食べたかったものを避けたら、また少し後悔しそうだった。
「Steak for twoと、マッシュポテトをお願いします。焼き加減はミディアムレアで」
注文してから、二人前という文字が急に大きく見えた。
パンで満腹になっている場合ではない
最初に運ばれてきたのは、バスケットに入ったパンだった。
フランスパンと、くるみの入ったパン。これが思いのほかおいしい。まだ主役は来ていない。それなのに、もう一つ食べたい。
おかわりできると聞いて心が動いたけれど、今日は二人前のステーキが待っている。パンで満腹になっている場合ではない。そう言い聞かせ、バスケットから手を離した。
やがて店員の掛け声とともに、熱い皿が運ばれてきた。
ジュージューという音で、さっきまでの緊張がどこかへ飛んだ。
骨の片側がフィレ、もう片側がサーロイン。取り分けてもらった肉を口へ運ぶと、和牛の脂の甘さとは違う、赤身をしっかり食べている感覚があった。私はフィレよりサーロインのほうが好みだった。
マッシュポテトはなめらかで、ステーキの合間に食べると、また次の一切れへ手が伸びる。

おいしい。けれど、二人前は二人前である。
後半になると、食べたい気持ちと満腹が同時に押し寄せてきた。次に来るなら、一人前のサーロインでも十分かもしれない。そんなことを考えながら、どうにか皿を空けた。
満腹なのに、なぜデザートを頼んだのか
食器を下げてもらうとき、正直に言った。
「一人で二人前は、やっぱり多いですね」
スタッフは、「でも、おいしいから食べられちゃいますよね。私もこれくらいなら一人で食べられると思います」と笑った。
こちらは、もうかなり限界である。
ところが、その一言を聞いた瞬間、妙な意地が出た。
おひとりさま代表として、ここで「もう無理です」と終わってよいのだろうか。そもそも、誰から代表に任命されたのか。
結局、シャーベットとカフェラテまで注文した。
シャーベットはレモン、ラズベリー、マンゴーの三種類。肉を食べた後の口がさっぱりする。カフェラテにはハートが描かれていた。

二人前を食べ切った達成感より、満腹なのにデザートを追加した自分への呆れのほうが少し大きい。それでも、最後まで楽しかった。
扉の内側にいたのは、食事をする私だった
会計を済ませ、預けていた荷物とコートを受け取った。
入店前は、一人で高級店に来た自分がどう見えるかばかり考えていた。ところが席に着いてから気になったのは、肉の焼き加減と、パンをもう一つ食べるかと、デザートを頼む余地があるかだった。
一人でも平気だった、と簡単にまとめると少し違う。
扉を開けるまでは、かなり緊張した。でも、扉の内側でやることは、誰かと来たときと変わらない。メニューを見て、食べたいものを選び、運ばれてきた料理を味わう。
帰るころには、少しだけ新しい世界を覚えた気がした。

ただし、次に二人前を一人で頼むかと聞かれたら、たぶん一度、パンの顔を思い出す。
いま一人で行くなら、二人前に挑む必要はない
六本木店は現在も公式店舗一覧に掲載され、営業時間は11時30分〜23時30分、料理のラストオーダーは22時30分と案内されています。
2026年9月7日に確認した公式ランチメニューでは、「THE WOLFGANG EXPERIENCE LUNCH COURSE」は9,900円。サーロイン、サラダ、マッシュポテト、クリームスピナッチが組み合わされ、公式予約画面では注文数1名から表示されています。表示価格には会計時にサービス料10%が加算されます。
一方、Tボーンへの変更は2名以上です。旧訪問記のように二名様用を一人で注文できると、現在の一般的な対応としては案内しません。グランドメニューのプライムステーキ2名様用は33,000円で、こちらもサービス料10%が加算されます。
初めてなら、先に決めておく四つ
- 肉を食べたいのか、Tボーンを体験したいのか。 一人用のサーロインと、2名以上のTボーンでは、必要な人数も予算も違います。
- ランチにするか、バーから試すか。 ハッピーアワーは15時〜18時のバーエリア限定で、公式案内では予約できません。開催時間が変わる場合があります。
- 表示額へサービス料を足したか。 9,900円のランチコースなら、サービス料10%を含む料理代の目安は10,890円です。追加注文は別に考えます。
- 変更・キャンセル条件を読んだか。 公式予約画面では前日50%、当日100%が基本で、プラン固有の条件がある場合はそちらが優先されます。
予約画面には、混雑時は席を2時間で案内する場合があること、バーとハッピーアワーの予約や席指定を受け付けないこと、入店時はスマートカジュアルを求めることも記載されています。
「一人で入れるか」だけなら、六本木店の予約画面には一人から選べるランチがあります。でも本当に決めたいのは、食べたい料理、払いたい金額、過ごしたい時間が自分に合うかどうかです。
今日は違うと思ったら予約しない。それも、誰かに合わせなくてよい一人の強さです。
席に着いてからの注文の順番
一人なら、最初にメイン料理と食べ終わりたい時刻を決め、前菜やデザートは後から追加する方法が安心です。料理の量は写真だけでは分かりにくいので、スタッフへ「一人で食べ切れる量か」「提供の間隔を空けられるか」と聞きます。高級店ほど、無理に知ったふりをせず相談した方が、自分のペースを作りやすいです。
会計前に確認する金額
メニュー価格へサービス料を足し、飲み物、追加料理、交通費を分けてメモします。合計が予算を超えそうなら、デザートを見送る、バーで一杯だけにする、ランチへ変更するという選択肢があります。値段を気にしながら食べ続けるより、帰宅後も納得できる範囲を先に決めておく方が、特別な一夜をきれいに終えられます。
ウルフギャング六本木の1名利用条件を確認する
一人で頼める料理、予算、滞在時間を決めてから、来店日の空席とプランを確認します。店舗の営業時間、サービス料、予約条件は移動先で再確認してください。
ウルフギャング六本木店の空席・プランを一休.comレストランで確認する
※営業日・席・料金・予約条件は予約時点の表示をご確認ください。
