37歳・佳奈さん|「3,900万円まで借りられます」の次に見るもの
木曜21時08分。小川佳奈さん(仮・37歳)は、住宅ローンの事前審査結果を三度読み直した。希望額3,680万円に対し、画面に出た借入可能額は3,900万円。「もう少し条件のよい部屋も見られますね」という担当者のメッセージが、その下で光っていた。
神奈川県の賃貸マンションで一人暮らし。メーカー人事の主任で、手取りは月33万円。貯蓄720万円。候補の部屋は3,980万円で、頭金300万円、購入諸費用250万円を置くと、ローン返済は今の家賃に近いという説明だった。審査に通った安心より、「3,900万円まで」という新しい上限の方が強く残った。
家賃11万2,000円と、返済10万円は同額ではない

翌朝、佳奈さんは担当者に「返済が今の家賃より安いなら、予算を上げてもよいでしょうか」と返した。橘が聞き返したのは、金利でも年収でもなかった。
橘「管理費と修繕積立金、固定資産税、火災保険は月いくらにしましたか」
佳奈さん「管理費と修繕積立金が3万1,000円。税と保険は……月に直していません」
編集長「ローン10万円なら、住居費は10万円ではない?」
佳奈さん「税と保険を月1万2,500円と置けば、14万3,500円です。家賃より3万円以上増える」
購入後の住居費は、ローン返済だけでは終わらない。マンションなら管理費、修繕積立金、その他の必須費用。戸建てでも自分で修繕を準備する。税と保険、設備交換もある。家賃と比べるなら、毎月・毎年・不定期の支出を同じ月額へ置き直す。
頭金300万円を入れた翌朝、現金はいくら残るか
佳奈さんは720万円から頭金300万円と購入諸費用250万円を引いた。残りは170万円。本人が休職、引越し、家電故障のために残したい現金は250万円なので、鍵を受け取る前に80万円足りない。頭金を増やすほどローンは減るが、購入直後の生活は弱くなる。
現在の貯蓄
頭金と購入諸費用
鍵を受け取った後
手付金、頭金、融資対象外の諸費用、引越し、家具・設備は支払時期も違う。契約日に払えるかではなく、決済と入居を終えた口座残高を作る。そこから生活防衛資金を引き、残った額だけを「追加の頭金候補」と考える。
金利タイプは、最初の数字ではなく35年の約束で読む
住宅ローンの金利タイプは、大きく全期間固定、固定期間選択、変動に分かれる。全期間固定は借入時に返済終了までの金利と返済見通しを置きやすい。固定期間選択は一定期間後の選択と適用条件、変動は金利と返済額の見直し方法を確認する。同じ「変動」でも、返済額の見直し時期や上限ルールが同じとは限らない。
佳奈さんが見た0.8%は、35年間を保証する数字ではなかった。比較用に、全期間2.2%の案と、0.8%で始まり5年後に2.5%へ変わる仮の経路を置く。将来金利の予測ではない。「その金利になったら生活のどこが先に消えるか」を見るための耐久テストだ。

35年返済リハーサルで、三つの時点を見る
物件の良し悪しや融資可否を判定するツールではない。購入直後、金利が変わる仮の月、退職年齢の三点へ、ローン、保有費、収入減を重ねる。金利変化案は入力年に残元金を計算し、残期間で返済額を再計算する単純モデルで、個別契約の返済額変更ルールを再現しない。
鍵・金利・退職日の三地点を通る
入力はブラウザ内だけで計算します。将来金利、融資承認、売却価格は予測しません。
初期値は、ローンより先に頭金で止まる

佳奈さんの数字では、購入後の現金が170万円となり、残したい250万円を下回る。そのため、金利の勝ち負けより先に頭金を戻す。仮に現金条件を整えると、次に見えるのが毎月の全住居費と収入減月だ。
3,680万円を35年で借りる単純試算では、0.8%の当初返済は約10万円、2.2%固定は約12万6,000円。0.8%から始めて5年後に2.5%で残期間を再計算する入力例では、その後の返済は約12万7,000円になる。そこへ管理・修繕3万1,000円、税・保険の月割り1万2,500円を足す。最初の月額差を節約額として使い切ると、変化後の余白がなくなる。
金利だけ上がる月より、収入も同時に下がる月が厳しい。休職、転職直後、残業減少を20%の収入減で仮置きし、休日費や老後積立を最初から0円にしない。守りたい額を残したまま赤字なら、借入額、価格、期間、頭金、生活のどれを変えるかを比較する。
退職日の残高は、完済年齢だけでは読めない
37歳で35年返済なら完済は72歳。65歳で仕事を終える仮定なら、その時点にもローンは残る。毎月返せるかに加え、公的年金や退職後の仕事収入で返済、管理、修繕、税を払えるかを見る。繰上返済で残高を減らせても、手元現金まで減らすと、設備故障や医療、住み替えへ弱くなる。
売却も自動的な出口ではない。売却額から仲介などの費用とその時点のローン残高を引き、次の住まいの初期費用まで置く。住宅ローン契約のまま賃貸に出せるとも決めつけない。転勤や介護の可能性があるなら、申込前に金融機関と管理規約へ確認する。
団信は「入っている」ではなく、支払われる条件を読む
団体信用生命保険は、加入者が保障対象となる状態になった場合に、保険金で住宅ローン残高を弁済する仕組みだ。死亡・所定の高度障害、三大疾病、就業不能など、保障範囲は商品・特約で異なる。病名だけで支払われるとは限らず、状態、期間、免責、告知、上乗せ金利や保険料を確認する。
一人暮らしでは、団信でローンがなくなっても、療養中の管理費・修繕積立金・税・生活費は消えない。反対に、働けない状態が団信の条件に当てはまらなければ返済は続く。勤務先の傷病手当、休職制度、民間保険、現金を、団信とは別の列に置く。
比較表には、金利の横に九つの欄を作る
01
適用金利になる条件と実行日
02
金利・返済額の見直し時期
03
事務手数料、保証料、登記等
04
団信の対象状態、免責、上乗せ
05
繰上返済の最低額と手数料
06
返済困難時の相談と条件変更
07
退職時点の残高と全保有費
08
売却・賃貸・転居時の手続
09
口座・カード等の付帯条件
比較条件は、借入額、返済期間、返済方法、ボーナス返済をそろえる。住宅金融支援機構の住宅ローンシミュレーションでも返済額と残高を確認し、最後は各金融機関の正式な見積書、商品説明書、契約条件と照合する。
相談サービスは「最大いくら」ではなく、三つの表で比べる

住宅ローン相談へ渡すのは、物件価格だけではない。購入後現金、通常月と収入減月、退職日の残高の三表だ。相談料、紹介する金融機関の範囲、固定・変動の比較、団信、手数料、個人情報の提供先、相談後の連絡停止方法を同じ欄にする。
物件紹介会社からローンを案内される場合も、紹介先、担当者の立場、紹介による報酬、ほかの金融機関を自分で選べるかを見る。承認額が大きい相談先を上位にせず、三表の空欄へ回答を持ち帰れる相談先を候補にする。
佳奈さんは借入額を下げず、上限線をいったん消した
土曜9時10分。ランニングへ出る前に、佳奈さんは二つの返済案を紺色のファイルへ留めた。3,900万円の承認額には線を引かず、欄外へ移した。代わりに赤いカードへ「購入後250万円」「収入20%減」「65歳の残高」と三つだけ書いた。
その日は、借入額を決めなかった。金融機関には0.8%の適用条件、返済額の見直し、団信、手数料、返済困難時の相談を聞く。仲介担当には管理費・修繕積立金の改定予定と、購入諸費用の明細を頼む。頭金300万円は、回答がそろうまで確定しない。

玄関の靴ひもを結びながら、佳奈さんは「35年」を初めてローン期間ではなく、自分の生活時間として考えた。管理職になるか、転職するか。姪と出かける休日。朝に走れる街。家を買うなら、それらを抵当に入れない返し方にしたかった。
住宅ローンの数字を並べる順番
比較表の数字を自分の暮らしへ置き換えるため、次の項目を一度メモします。分からない項目は空欄のまま契約や購入へ進まず、確認する質問に変えます。
- 毎月返済額とボーナス返済の有無
- 金利が変わった場合の返済額
- 団信・手数料・繰上げ返済の条件
借りる前に、返済以外の住まい費用も並べてみる
返済可能額と金利タイプを比べたら、管理費・修繕積立金・固定資産税・保険・引っ越し費用まで同じ表に入れます。住宅ローンや資金計画の本は、制度と金利が変わる可能性を踏まえて発行日を確認し、自分の試算を見直す補助資料として利用してください。
