日曜19時12分。小川佳奈さん(仮・37歳)は、玄関に二つの紙袋を置いた。赤茶の花が印刷された新築マンションの資料と、築18年の中古マンションでもらった管理資料。新築は3,980万円、中古は3,180万円。八百万円の差なら、答えは出たように見えた。
メーカーの人事で主任。神奈川県の築18年賃貸に暮らし、貯蓄は720万円。通勤30分以内と、一人で静かに過ごせる部屋を守りたい。朝、新築のモデルルームではホテルのようなラウンジに心が動いた。午後、中古の住戸では窓を閉めた時の静けさと、午後四時の光を自分で確かめられた。
佳奈さん「新築は高いけれど安心。中古は安いけれど修繕が怖い。そう比べればいいですよね」
橘「新築の安心は、まだ起きていないことの計画です。中古の不安は、すでに起きたことの記録です。値段の列だけでは比べられません」
佳奈さん「同じ十年後まで開いてみます」
モデルルームの白さと、中古住戸の生活跡は同じ物差しに乗らない
新築の候補は駅徒歩7分、32平方メートル。完成は11か月後で、佳奈さんが見たのは広いタイプを再現したモデルルームだった。希望住戸の窓から見える建物、午後の光、上階の足音、廊下から玄関へ届く音はまだ確かめられない。一方、設備は新しく、共用部もこれから使い始める。
中古は駅徒歩10分、38平方メートル。キッチンと浴室は古いが、実際の住戸を歩ける。窓枠の結露跡、配管を更新した範囲、床の傾き、給湯器の年式は現物と告知で確かめられる。共用廊下、掲示板、自転車置場、ゴミ置場には管理の現在が出る。ただし、一度の内見で建物内部や将来の工事まで分かるわけではない。
佳奈さんは新築に「未完成」、中古に「実物」と書いた。良い・悪いではなく、確認方法が違うという意味だ。新築は図面、仕様書、管理規約案、長期修繕計画案、引渡し手順を読む。中古は現物、修繕履歴、積立残高、総会議事録、管理規約、告知、調査範囲をつなぐ。
二度目の内見は「きれい」ではなく、暮らしの順番で歩く

佳奈さんは中古の二度目の内見を、仕事帰りの18時30分に入れた。玄関では靴と傘と宅配便、洗面では朝の身支度、キッチンでは帰宅後の夕食、寝室では隣戸とエレベーターの音を順に確かめる。メジャーで冷蔵庫置場の幅だけを測るのではない。扉を開けたまま人が通れるか、洗濯機から干す場所まで濡れた衣類を運べるか、仕事鞄と上着を床へ置かずに済むかまで歩いた。
水を流せるなら、複数の蛇口を使った時の水量、排水の音、湯が出るまでの時間を見る。分電盤の回路数、コンセントの位置、携帯電話の電波、窓際の冷気、給湯器とエアコンの製造年も写真とメモへ残す。家具が置かれた住戸では、壁や床を見られない場所を「確認済み」にしない。採寸値には、どの壁からどの壁までかを添える。
新築では同じ住戸を歩けないため、販売図面に手持ち家具の寸法を描き、モデルルームとの違いを一つずつ質問した。梁と下がり天井、柱の出、窓の高さ、開く方向、室外機置場、コンセント、標準仕様と有償オプション。完成後の内覧会で初めて見える箇所と、契約前に図面で確定する箇所を分ける。モデルルームの照明と家具が作った広さを、自分の32平方メートルへそのまま持ち帰らないためだ。
比較は、購入日・住む十年・売る日・普通の日の四層に分ける
01
購入日
頭金、諸費用、オプション・改修、引越し。払った後に現金がいくら残るか。
02
住む十年
返済、管理費、積立金の改定、税、保険、専有部設備。月額と臨時支出。
03
売る日
想定売却額だけでなく、売却費用とその時点のローン残高を引く。
04
普通の日
通勤、音、光、収納、疲れた夜、管理への参加。数字に換えない生活。
物件価格が低い中古でも、購入日に改修と諸費用を多く払えば、残す現金は少なくなる。新築でも、当初の積立金が低く見えるだけで、将来の改定計画を入れれば毎月額は変わる。売却額は予測せず、「この金額ならどうなる」を二物件へ同じ条件で入れる。
新築と中古を、同じ金利・年数・出口で並べる

二つの候補資料をそのまま写してください。結果は未来の価格やおすすめを当てるものではなく、どの支出と資料が差を作るかを見る比較台です。入力内容は保存・送信しません。
新築
- 購入日の現金
- 当初月額
- 積立改定後
- 10年後残債
- 売却時に戻る現金
- 10年現金コスト
中古
- 購入日の現金
- 当初月額
- 積立改定後
- 10年後残債
- 売却時に戻る現金
- 10年現金コスト
まだそろっていない資料
中古が安くても、購入日に残る現金が多いとは限らない
初期例では、新築は頭金300万円、諸費用220万円、オプション等80万円で、購入日の現金は600万円。中古は同じ頭金でも、諸費用280万円、改修420万円で1,000万円になる。貯蓄720万円から250万円を守る条件なら、どちらもそのままでは届かず、中古は資金計画自体を組み直す必要がある。
だから中古の改修は「いつか払う」で外さない。入居前に必要な給湯、配管、床、窓、キッチン、浴室と、住みながら選べる内装を分ける。新築も物件価格だけでなく、オプション、家具、照明、カーテン、引越し、つなぎの家賃を引渡し日へ置く。
佳奈さんが守った250万円の中身
生活費六か月分、家電の同時故障、親の急な移動費、転職した場合の収入の空白。頭金へ入れられる上限を「銀行が貸してくれる額」から決めず、購入翌日にも一人で生活を続けられる額から逆算した。購入後に残す現金は余りではなく、住まいを手放さずに選択肢を持つための資金だ。
諸費用の見積りも一式で終わらせず、登記、融資、仲介、火災・地震保険、税の精算、修繕積立基金、引越しへ分ける。支払日が契約時・決済時・入居後のどこかも書く。比較ツールの一つの欄には合計を入れ、元の明細は消さない。

新築は五つの計画、中古は五つの履歴を集める

新築で読むもの
- 管理規約案と管理委託契約案
- 長期修繕計画案と積立金の改定案
- 保証範囲、資力確保措置、連絡期限
- 図面・仕様、内覧、引渡しの手順
- 未販売住戸、駐車場、共用施設の収支前提
中古で読むもの
- 複数年の総会議事録と修繕履歴
- 積立残高、滞納、長期修繕計画
- 建物状況調査の有無、日付、調査範囲
- 改修範囲、配管、保証、管理規約
- 告知事項、契約不適合責任、引渡し条件
新築住宅では、売主等が負う一定部分の10年間の瑕疵担保責任を履行するため、保険加入または保証金供託による資力確保措置が設けられている。国土交通省の新築住宅購入者向け案内で制度の範囲を確認し、候補住戸では対象部分、通知先、期限を売主の書面へ戻す。「10年保証」が設備すべてを10年間無償修理する意味だとは読まない。
中古住宅の建物状況調査も、調査した人、日付、住戸内外の範囲、確認できなかった場所を読む。国土交通省の建物状況調査の案内は、調査結果を万能な保証へ変えるものではない。内見、告知、修繕履歴、必要なら専門家確認を重ねる。
部屋の新しさと、建物を運営できることは別
マンションでは、専有部が新しくても、共用部の管理と修繕を所有者同士で続ける。新築は管理組合の実績がまだなく、分譲時の計画が出発点になる。中古は会計、議事録、滞納、工事、合意形成の履歴を読めるが、履歴があるだけで良い管理とは限らない。
マンション管理計画認定制度は管理組合運営、規約、経理、長期修繕計画等の基準を確認する一つの材料になる。認定の有無だけで順位を決めず、対象自治体、認定時点、現在の計画と会計を候補ごとに見る。
佳奈さんは当初積立金だけで月額を比べるのをやめ、六年目からの改定額を両方へ入れた。初期例では、新築の当初月額は約13万4,176円、中古は約11万9,681円。改定後は新築約14万2,176円、中古約12万4,681円になる。安い方を選ぶ答えではない。増えた後も静かな部屋と生活費を守れるかを見る数字だ。
十年後の売却額ではなく、残債を引いたあとを見る
新築3,400万円、中古2,800万円で十年後に売る仮定を入れても、その金額が手元へ戻るわけではない。売却費用とローン残高を引く。初期例では新築の残債は約2,817万円、売却時に戻る現金は約447万円。中古の残債は約2,205万円、戻る現金は約483万円になる。
支払った現金から売却時に戻る現金を引いた十年コストは、新築約1,991万円、中古約2,173万円。この差は未来の優劣ではない。中古の改修420万円、新築の高い借入、二つの積立改定、仮の売却額が作った結果だ。一つずつ変え、どの前提が結論を動かすかを見る。
同じ地域の取引価格、防災、都市計画、周辺施設は国土交通省の不動産情報ライブラリから広告と別に確認できる。ただし取引価格だけでは階、向き、管理、室内状態まで一致しない。査定額は一社の結論ではなく、根拠と売却期間を聞く材料にする。
最後は、月曜朝と疲れた夜を二つの部屋で歩く
佳奈さんは翌朝、二つの物件から勤務先までを同じ時間帯で調べた。新築は駅まで近いが、乗換駅の階段が長い。中古は三分遠いが、改札まで平坦だった。帰宅が遅い日は、スーパー、照明のある道、宅配ボックス、ゴミ出しの時間が生活へ効く。
窓を閉めた音、隣戸との位置、エレベーター待ち、洗濯物を干す場所、収納へ仕事鞄を置く動線、走った後の靴を乾かす場所。新築で確認できないものは、同じ向き・階に近い現地周辺と図面で質問へ変える。中古は平日朝、夜、雨の日にもう一度歩く。住みやすさと売りやすさを同じ点数へ混ぜない。
鍵を受け取った翌月から、所有者として建物に参加する
管理費と修繕積立金は、払えば終わるサービス料ではない。総会の議案、管理会社からの報告、長期修繕計画、工事見積り、保険、滞納、駐車場稼働率は、将来の負担と建物の状態につながる。佳奈さんは「忙しいので理事は無理」と思っていたが、少なくとも年一回の総会資料を読み、議決権を使う時間を暮らしの予定へ入れた。
中古では過去三年分の議事録を並べ、同じ漏水や騒音が繰り返されていないか、修繕提案が先送りされていないか、反対意見に説明が返されているかを見る。新築では履歴がないため、管理開始時の予算、売れ残り住戸の費用負担、共用施設の利用見込み、最初の総会までの運営を確認する。立派なラウンジやワークスペースは魅力だが、清掃・空調・更新費まで含めて自分が持つ設備でもある。
専有部では、給湯器、エアコン、食洗機、浴室乾燥機などの交換時期を一枚の表へ置く。共用部の積立金とは別財布だ。中古の改修費420万円に入れたもの、新築の保証対象になるもの、数年後に自費で替えるものを分けると、「新しいから当分ゼロ」「古いから全部すぐ壊れる」という両極端から離れられる。
物件検索・相談サービスは、扱う範囲と立場から選ぶ
条件を整理した後にサービスを比べるなら、新築だけを扱うのか、中古・リノベまで含むのか、売主・仲介・紹介・相談のどの立場かを最初に見る。対応地域、物件情報の更新、仲介手数料・相談料、住宅ローン紹介、管理資料の取得、改修会社との関係、個人情報の提供先、営業連絡の停止方法を同じ順で並べる。
新築の未完成部分を深く読むなら新築マンションの10年支払窓へ。中古の建物管理を読むなら長期修繕計画・積立残高・議事録の三資料へ進む。購入全体の耐久力は一人で家を買う住宅耐久テスト、賃貸も残すなら5年・10年・20年の出口マップで比較する。
新築・中古を同じ条件で探す
二つの十年と10資料を整理してから、対象物件、立場、費用、資料取得、融資、改修、送信先を確認できるサービスだけを候補にする。広告報酬は物件評価と分離する。
佳奈さんが選んだのは、新築でも中古でもなく「次に見る一枚」だった
月曜の夜、佳奈さんは二つの紙袋を捨てなかった。新築の袋からは長期修繕計画案と管理委託契約案を出してもらう。中古の袋には直近三年の総会議事録と積立残高を足す。価格表の丸印は消し、回答が来た日を書く欄へ変えた。

佳奈さん「新築なら安心、中古なら得、では決められませんでした」
橘「代わりに何が分かりましたか」
佳奈さん「新築は計画が暮らしになるまで、中古は履歴が次の十年へ続くか。私はそこを買うんですね」
新築と中古は、年齢で選ぶ二択ではない。いま払う現金、住んでいる間に引き受ける管理、直せる範囲、十年後に離れる余地、毎日の静けさを、候補ごとに引き受けられるかを見る。佳奈さんの二つの紙袋は、ようやく同じ机の上で比べられる二冊になった。
佳奈さんは、新築の資料には長期修繕計画案と管理委託契約案を、中古の資料には直近三年分の総会議事録と積立残高を足すことにした。価格表の丸印は消し、回答が届いた日を書く欄に変えたが、新築か中古かは、まだ決めていない。
新築・中古の違いを本でも確認する
価格だけでなく、管理費・修繕・断熱・住み替えやすさを比べたあと、契約や購入後の費用を自分のペースで復習したい人もいます。申込みを急がず、発行日と目次を確認し、今回の比較で分からなかった範囲だけを補う一冊を選んでください。
