都内に住むシングル女性の会社員、斉藤さとみさん(35、仮名)は手取り25万円の収入、賃貸マンション(家賃7万円)でひとり暮らしをしています。
まだ結婚をあきらめたわけではありませんが、これからの人生をひとりで歩む可能性も考え老後の計画を立てることにしました。
老後に必要な生活費
まずは老後に必要な生活費から見てみることにしましょう。
総務省の家計調査によると、60歳以上の単身世帯の平均消費支出は月15万円程度です。
意外と少ないと感じましたか?しかしこの家計調査にはひとつ落とし穴があります。実は老後の消費支出における住居費の割合は月1万5千円程度しか考慮されていないということです。月1万5千円で賃貸マンションに住むことなどできませんので、この家計調査は持ち家に住んでいる人を対象に行われていると考えることができるでしょう。
つまり国の政策では生涯賃貸で暮らすということは想定されておらず、老後を迎えるまでには持ち家を保有していることが前提ということなのです。
斉藤さんのケースで考えると手取り25万円から家賃の7万円を差し引くと18万円ですので、老後の生活費が家賃を含めずに15万円程度であれば妥当な水準といえそうです。
単身世帯の老後の生活費は月15万円程度(ただし家賃は含まない)
老後の収入
次に老後の収入面を見てみることにしましょう。
厚生労働省によると女性の厚生年金の平均月額は10万2千円です。
これは思ったよりも少ないですね。厚生年金は現役時代の給与と加入期間で決まるため、女性は男性より少ない傾向にあります。ちなみに男性の厚生年金の平均月額は16万9千円です。
斉藤さんは実際いくら年金をもらえるのでしょうか。日本年金機構の「ねんきんネット」で見込み額を調べてみたところ、このまま65歳まで働き続ければ13万円程度もらえることが分かりました。女性の平均額より多いとはいえ、13万円はやはり少なく感じます。これで本当に老後はやっていけるのでしょうか。
シングル女性の老後の収入は月10万2千円
シングル男性の老後の収入は月16万9千円
いくら準備するべきか
老後に必要な生活費と収入が分かったところで老後に向けていくら準備すればよいのか考えてみましょう。斉藤さんのケースで考えると、収入が13万円に対して支出は15万円ですから毎月2万円を貯蓄から補う必要があります。
女性の平均寿命は87歳ですが、50%以上の人が平均寿命より長生きするという現実がありますので、老後を考えるときには95歳ぐらいまで考慮しておくのが賢明です。毎月2万円を65歳から95歳まで30年間補てんすると720万円が必要となります。これに入院などの予備費300万円を加えて、およそ1000万円の老後資金を準備しておけばなんとかなりそうです。
ただ、ここで忘れてならないのは、支出の15万円に家賃が含まれていないという現実です。
一生賃貸で暮らすのであればこれとは別に賃貸分の費用を準備しなければなりません。家賃7万円のマンションに住み続けるのであれば30年間で約2600万円が必要となります。これは非常に大きな金額です。収入の少ない老後にこれだけの金額を賄うことは容易なことではありません。かといって現役時代に老後の資金として不足が見込まれる1000万円だけではなく、家賃分の2600万円も別途準備していくというのも現実的に難しいことでしょう。
これらのことを考えるとやはり現役時代に無理のない範囲でマンションを取得して、老後を迎えるまでに住宅ローンを完済しておくということが現実的な判断といえるのではないでしょうか。
生涯賃貸暮らしの場合2500〜3000万円の備えが別途必要
将来はさらに不透明
これまで老後の備えについて検討してきましたが、これはあくまで現在の年金支給開始年齢や給付水準をもとにした議論です。今から30年後に65歳から年金が支給され、支給額も今と同額という可能性は限りなくゼロに近いことでしょう。おそらく支給開始年齢は67〜70歳、年金支給額は今の6〜7割程度の水準というのが妥当なラインになってくるでしょう。それでは生活保護の方が高くなってしまいますので、生活保護費の減額も同時進行で進むことが考えられます。
それでは夢も希望もないということになってしまいますが、個人としてできる対策はなるべく早い段階で老後の準備を始めること(マンションの取得であったり、個人年金であったり)に尽きます。それら必要最低限の老後対策ができているのであれば、あまり深く考え過ぎないことも重要です。これから30年先がどのようになっているのかは誰にも分かりませんので、必要以上に老後のことを考えるのは無意味です。私たちは老後のために生きているわけではありませんので、今を楽しむという視点も忘れてはなりません。
現在の年金制度において老後の対策ができている人も十分でないという人も、このように将来が見通せない中で最終的に自己防衛をする一番の手段は働き続けることです。65歳まで働くのはもはや当たり前として、将来的には70歳を過ぎても働くことが求められるかもしれません。働くことは社会とのつながりを持てるという点で悪いことばかりでもありません。今のうちからやりたいことを見つけておくというのもひとつの老後対策といえるかもしれません。
自己防衛の手段はなるべく働き続けること
公的年金制度は、このままでは必ず破綻します。年金支給開始年齢は段階的に引き上げられ、定年年齢の延長もあわせて行われるはずです。「高年齢者雇用安定法」の改正で、13年4月からは定年年齢が原則として65歳となりましたが、これは年金支給開始年齢の引き上げと軌を一にしています。日本社会も「生涯現役」の仕組みに、変わっていこうとしているのです。
参考 「老後の備えは300万の定期預金で十分」のワケ
もうひとつの防衛策は公的年金+個人年金による自助努力です。最近はiDeCoやつみたてNISAなど選択肢も増えてきていますので、ぜひ情報収集しつつ老後の備えについて検討してみてください。
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