「2025年問題」について考える
街を歩く高齢者の割合が増え、高齢社会を肌で感じるようになりました。しかし、日本の高齢化が私たちの老後に大きな影響を及ぼすと実感できている人は意外と少ないかも知れません。
東京オリンピックのわずか5年後には、2025年問題がやってきます。
2025年問題とは何なのか、どんな影響があるのかについて、わかりやすくご紹介します。
2025年問題とは
団塊世代が後期高齢者に
現在の日本において、一番人口が多いボリュームゾーンにいるのは団塊世代の人たちです。何かと話題になりがちな団塊世代という言葉ですが、この団塊世代の人たちが75歳を超え後期高齢者になるタイミングとなる2025年が、今、関心を集めています。
超高齢社会どころではない超超高齢社会
WHO(世界保健機構)の定義では、65歳以上人口の割合が21%を超えると超高齢社会といわれます。東京オリンピックのわずか5年後である2025年の日本では、65歳以上の高齢者割合が30%を超えます。75歳以上の高齢者割合も18%以上となることがわかっており、超高齢社会のさらに上をいく超超高齢社会時代を迎えるのです。
社会保障費の増加が問題に
国内における高齢者の割合が増えていくと、どうなるでしょうか。
国の財政上の重要な項目である介護・医療・年金などの社会保障費が大変な勢いで増加します。そして、税金面や医療現場、年金支給制度の変化といった形で私たちの老後にも大きな影響を及ぼすことになるのです。
これら社会保障費にかかわる具体的な内容について、さらにくわしくご紹介していきます。
年金受給年齢の引き上げ
老後の大事な収入減となる公的年金
私たちが、何歳まで働こうか、どのくらい老後資金を貯めようかと考えるとき、年金受給年齢について考えないわけにはいきません。
年金が老後の生活設計における大事な収入源であるためです。
公的年金には、国民年金と厚生年金の2種類があります。国民年金は日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する公的年金制度であり、厚生年金は会社勤めをしている人が加入する公的年金制度です。
年金の受給開始年齢が70歳となる可能性も
厚生年金制度は1942年に始まり、当初の受給開始年齢が55歳でした。その後、60歳となり現在は65歳となっています。
老齢基礎年金の始まりは1961年で、厚生年金制度の開始よりも後のことでした。老齢基礎年金の受給開始年齢も65歳です。
しかし、2025年問題をきっかけに受給開始年齢が70歳になるのではないかと危惧する声が聞かれるようになっています。仕事をやめてから年金がもらえるまでの空白期間が増えれば増えるほど、貯蓄が減るリスクが高まります。空白期間を少なくするためには、なるべく長く働き続けなければなりません。
医療費窓口支払いの増加
公的医療保険制度の仕組みとは
日本の国民医療費は、高齢化や医療の高度化を背景に増加が続いています。公的医療保険制度のおかげで私たち国民の窓口負担は軽く済んでいますが、その分、公費に負担がかかっているのです。公的医療保険は下記のような仕組みとなっています。
(1)現役世代が高齢者を支える
(2)所得の高い人が低い人を支える
(3)健康な人が病気の人を支える
生涯医療費の半分は70歳以上になってから
ふだんの生活で意識する機会はなかなかありませんが、国民1人あたりの生涯医療費(生まれてから亡くなるまでにかかる医療費)は約2,300万円です。しかも、そのうち半分以上は70歳以上でかかります。高齢者の割合が増えれば増えるほど医療費が増大するということです。
具体的な数字でご紹介すると、2012年に、およそ40兆円であった国民医療費は、2015年に45兆円となりました。さらに2025年には61兆円を超えると試算されています。この伸び率はGDPを上回っています。そのため保険料や自己負担額が増加すると考えられ、私たちの家計上の支出に影響を与えるでしょう。
介護保険料の引き上げ
40歳から徴収される介護保険料
高齢化を迎えた日本では、2000年から40歳以上の人を対象に介護保険料が徴収されるようになりました。介護保険料は収入や加入している医療保険、市町村などによって変わりますが、高齢化率の上昇に伴い保険料が上がり続けています。
公的年金制度では60歳まで、あるいは70歳まで保険料を払えばいい仕組みとなっていますが、介護保険料は生きている限り支払い続けなければなりません。公的年金が支給されるようになっても、年金からの天引きなどの方法で納めます。
介護保険料が上がり続けている
介護保険料は、制度が始まってから保険料が上がり続けており、2025年度には、現在よりも介護保険料が上がる見込みとなっています。例として65歳以上の人の介護保険料について下記に示します。かなり上がっていく様子が実感できるのではないでしょうか。
【65歳以上の人の介護保険料(全国平均額)】
- 2000年度:2,911円
- 2017年度:5,514円
- 2025年度:8,165円(推計)
生活保護受給費の削減
生活保護受給者世帯に占める高齢者の割合
テレビやネットニュースで取り上げられる機会が度々ある生活保護費の問題。何となく関心を持っているという人も多いのではないでしょうか。
しかし、高齢化と生活保護費の関係についてはピンとこない人もいるはず。
実は、高齢化問題と生活保護費の問題は密接に関係しています。生活保護受給者世帯のうち45%以上が65歳以上の世帯であるためです(2017年時点)。
生活保護費の内訳について
生活保護制度では、下記のような扶助が行われています。
(1)日常生活で必要となる生活扶助
(2)家賃等で必要となる住宅扶助
(3)医療機関にかかったときの医療扶助(本人負担なし)
(4)介護サービスを受けたときの介護扶助(本人負担なし)
ほかにも教育扶助や出産扶助などがありますが、生活保護費を受給する高齢者が増えると医療扶助や介護扶助の公的負担の大きさが問題となります。実際に、国の負担する生活保護負担金のおよそ半分を医療扶助が占めているのです。
生活保護基準の見直しについて
生活保護基準は5年ごとに見直しが行われており、2018年からは数年かけて最大5%の減額が行われます。
また、医療扶助の負担を減らす取り組みとして、後発医薬品の使用を原則とする、年齢や地域差を考慮した調整を行う、などの制度見直しも行われてきました。
高齢化が進めば進むほど国や地方が負担する生活保護費負担金が増加するため、今後の生活保護基準見直しの内容が厳しくなっていくことも予想されます。
政府の財源は既に厳しい状況となっている
ここまでお話ししてきたとおり、2025年問題が話題になる理由は、社会保障費の増加スピードの速さにあります。1990年には11.5兆円であった社会保障費が、2017年には32.5兆円まで膨れ上がりました。もともと大きな金額であったものが3倍にもなったという状況です。
国の財源は既に厳しい状況であるため、歳出の増加がそのまま国債発行額の増加につながっています。1990年の7.3兆円から2017年には34.4兆円と、約5倍の金額であり、国の歳入の1/3を国債発行額が占めています。少子高齢化で社会保険料収入が増えないため、公費負担が増え続けているのです。
2025年以降も厳しい状態が続く
日本の少子高齢化は2025年以降も
日本の少子高齢化は2025年以降も続きます。2015年に7,629万人いた15〜64歳の現役世代人口は2060年に4,418万人となり、総人口のおよそ60.7%から51.0%に減少すると推計されています。14歳以下の人口も1,589万人から791万人と減少する見込みです。一方、65歳以上の人は3,347人から3,464万人へと増加し、総人口に対する割合も26.6%から39.9%へと増加します。
電車の一つの車両に100人の人が乗っているときに、40人が高齢者、10人が子供となるようなイメージをするとわかりやすいかもしれません。
親の問題ものしかかる
おひとりさまに限った話ではありませんが、少子高齢化による2025年問題は親の介護の問題にも影響してきます。
有識者による政策提言組織である日本創生会議によると、2025年に医療・介護サービスを満足に受けられない介護難民が東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県だけで13万人を超えるとのことです。
高齢になった親の体が不自由になったときに、どうするのか、介護サービスに余力のある地方都市へ移住するのか、在宅支援を利用していくのかなどを考えておく必要があります。
今回ご紹介した話は、どれも頭の痛い問題ばかりのように見えますが、人は誰でも平等に老います。いざというときに慌てないよう、今回の知識を老後の備えや生き方の検討に生かしてみてください。