年金よりも生活保護の方が得なんですか?
本当に年金よりも生活保護の方が得なのでしょうか
前回、実際に受け取る年金の受給額は思ったよりも少ないというお話をしました。内閣府の調査によると、年金で暮らしている高齢者の5人に1人は生活保護以下の年金収入で暮らしているのだそうです。しかも、この割合は今後ますます高まっていくことが予想されているのです。このままでは国民のほとんどが下流老人へと転落してしまいます。
であれば、年金ではなく生活保護で暮らした方がいいのではないかと考えるのは自然な流れです。生活保護は医療費や税金も免除されるなど様々な特典もありますので、頑張って年金を払うのがばかばかしくなってしまうという人も多いことでしょう。
今回はそんな疑問に答えるために、年金と生活保護のどちらがお得なのかを比較検討することにしました。本来であればこのような比較自体が間違っているのですが、国の政策に矛盾点があるというのも事実なので、現実的に実現可能なのかという視点も交えながら検証してみたいと思います。
まずは、生活保護の受給要件を確認してみましょう。
生活保護の受給要件
生活保護を受給するためには主に下記の要件をクリアしている必要があります。
- 預金がないこと
- 売却できる資産がないこと
- 扶養してくれる親族がいないこと
- 病気や高齢などで働くことができないこと
条件1 預金がないこと
住んでいる地域によって最低生活費が定められており、東京23区の場合はおよそ13万円です。その金額よりも手持ちの現金が少なければ生活保護が受けられます。もし預金口座に最低生活費を上回る金額の預金があった場合、その預金を生活費に充当し、最低生活費(13万円)を下回って初めて生活保護費が支給されます。
あくまで最低限の生活を保護するという趣旨ですから、資金的に余裕のある状態で生活保護を受給することはできません。このあたりはかなりシビアなようです。
条件2 売却できる資産がないこと
基本的に家や車を所有している状態では生活保護を受給することはできません。持ち家やマンション、車を売却して、そのお金を生活費に充当して、最低生活費を下回る現金残高になって初めて生活保護を受給することができます。
この条件は原則論なので必須条件とまではいかないようですが、基本的に家や車の所有がある状態では生活保護の受給は難しいようです。
扶養してくれる親族がいないこと
生活保護は人様の税金で暮らすということなので、その前にまずは親族を頼ってくださいというのが原則論なようです。ですから、生活保護の申請をした際には、親族に電話連絡がいくことになります。ただそんなことを言われても、親族側にも余裕があるとは限りませんので、断られてしまえばそれまでです。
病気や高齢などで働くことができないこと
国民には勤労の義務がありますので、働くことが可能なのであればまずは働くことが優先されます。うつ病などで生活保護を受給することも可能ですが、ケースワーカーが定期的に訪問して可能な限り自立を促す仕組みとなっています。一度生活保護を受給すれば安泰ということはなく、常にプレッシャーを受け続けることになります。
現役世代にとってはハードルが高い生活保護
このように生活保護の受給要件はわりとハードルが高く、普通に生活している人が容易に生活保護を受給できるわけではありません。資産を全て投げ売って生活保護を受給できたとしても、頻繁にケースワーカーが自宅を訪問してきて、働くことを促されるわけです。それはそれでなかなか面倒くさいことだと思いませんか?
しかし、現役世代ではない高齢者の立場になるとまた見え方が変わってきます。例えば、まともに老後の備えをしないで老後を迎えてしまった方々は年金ぐらいしか頼る収入源がありません。そうなると上記の条件はことごとくマッチしてしまいます。
- 預金がないこと (老後の備えをしてこなかった場合、預金はいつしか底をつくことでしょう)
- 売却できる資産がないこと (最初から賃貸暮らし、車なしという方も多いのではないでしょうか)
- 扶養してくれる親族がいないこと (家族ですら手一杯なのに他人の老後の面倒を見てくれるゆとりある親族がどのくらい存在するのでしょう)
- 病気や高齢などで働くことができないこと (そもそも高齢なので強制的に働かされることもないでしょう)
これが高齢世帯で生活保護受給が急増している背景なのです。
ちなみに、年金を受給している世帯で生活保護の申請が通った場合は、生活保護費が満額支給されるわけではなく、生活保護費の満額から年金分を差し引いた額が支給されます。それでも生活保護には医療費や税金の免除など様々な特典がありますので、年金だけで苦しい生活を送るよりはるかに楽な生活が待っているわけです。
では次に生活保護を受給することでどういったメリットがあるのか見てみることにしましょう。
生活保護のメリット
生活保護を受給することで様々な特典を受けられるわけですが、以下の4つは特に大きなウェイトを占めています。
- 国民年金の倍額の生活保護費
- 家賃の支給
- 医療費の免除
- 各種税金・公共料金の免除
国民年金の倍額の生活保護費
国民年金しか加入していなかったケースですと、月額6万円程度の年金しか受け取ることができません。そうなると国が定める最低生活費も下回る収入となりますので、差額の7万円(東京23区の場合)は生活保護費から支給されることになります。仮に年金を全く払っていなかった方には満額の13万円が支給されることになりますので、年金を真面目に払ってきた人ほど馬鹿を見る制度ということが言えそうです。
厚生年金にしっかりと加入されていた方は概ね生活保護費と同額程度の年金を受け取ることになりますので、生活保護を受給することはなかなか難しいようです。仮に年金収入が月額11万円で生活保護が認められた場合は、残り2万円が生活保護費として支給されることになります。
家賃の支給
生活保護の受給が認められると、生活扶助費として約8万円が支給されますが、その他にも生活扶助費とは別に住宅扶助費(家賃)が支給されます。家賃の上限額は地域によって定められていますが、東京都の場合は53,700円が上限となります。
医療費の免除
社会問題化していますので、ご存知の方も多いかと思いますが、生活保護を受給している方の医療費は全額免除されます。
各種税金・公共料金の免除
生活保護を受給している方は、所得税、住民税、年金、健康保険、NHK受信料、水道基本料金など各種税金、公共料金が免除されます。
どうもおかしい生活保護制度
厚生年金をしっかり払い続けて年金収入が8万円以上ある方は、その中から生活費も家賃も支払わなくてはいけません。一方、生活保護を受給している方は住宅扶助費の8万円とは別に家賃も5万円程度支給されます。つまり月額13万円以上の収入が担保されているわけです。その他、医療費の免除や税金の免除なども加味すると格差は広がる一方です。実際のところ年金はいくらもらえるの?によると、月額収入13万円の時点で生涯平均年収400万円の人たちと並んでしまいました。医療費や税金の控除を考えると、厚生年金をまともに支払ってきた大多数のサラリーマンを上回る収入ということになってしまいます。(制度上、厚生年金は生涯平均年収750万円が上限となり、その場合月額の年金支給額は19.4万円になります)
現役時代に年収1000万円を超える高給取りだった方々でさえ、生活保護に肉薄してしまうという制度はどうなのでしょうか。今のままの制度では、現役時代に年金も支払わないで無計画な人生を送ってきた人が実は勝ち組という少し受け入れられない結果となってしまいます。頑張る人が馬鹿を見るという制度はそろそろ見直す時期に来ているのではないでしょうか。このままでは年金という制度がモラルハザードと共に破たんしかねない状況です。
生活保護のデメリット
国民年金だけでなく、厚生年金を支払う全ての人に完勝してしまった生活保護ですが、デメリットも当然あるはずです。このままではあまりにも年金受給者が浮かばれません。ざっと見てみることにしましょう。
生活保護のデメリット
- 貯金ができない
- 借金ができない
- 海外旅行ができない
- 家や車が所有できない
- ケースワーカーの定期訪問がある
おそらく現役時代であれば、上記はかなりのデメリットになるはずです。しかし、高齢者からするとどれほどのデメリットなのでしょうか。これらの制約を受けるだけで月額13万円+α以上の収入が得られるわけですから、ほとんど問題にならないはずです。ケースワーカーの定期訪問に至っては、むしろ話し相手がいてうれしいぐらいかもしれません。
年金と生活保護どっちがお得?
なんということでしょう。ここまで年金と生活保護の比較をしてきましたが、これほど肉薄してしまうとは正直考えていなかったです。国民年金しか受け取っていない人よりはいい生活が送れるだろうぐらいの認識でしたが、実は厚生年金を満額受給している大多数の人よりも恵まれた待遇だったのです。年齢を重ねるにつれて医療費もかさむことになると思いますが、生活保護であればその心配もしなくてよいのです。なんというバラ色の老後生活でしょうか。
ただし、これはあくまで現在のお話です。今後ますます高齢化が進み、高齢者を支える現役世代とのバランスがいびつになっていきます。生活保護は税金から賄われているわけですから、高齢世帯の生活保護を青天井で増やせるかというとそんなことはありません。必ずどこかで社会問題になるはずです。そうなればこのアンバランスな制度は大幅に改定されることになるでしょう。
今時点で年金と生活保護どっちがお得?と問われれば、生活保護の方がお得ですと言わざるを得ない状況です。しかし、今後社会がどのように変化していくか見通せない中で、じゃあ年金を払わないで生活保護をもらえばいいやという安直な行動もどうかと思います。生活保護制度が今後20年、30年先も今の水準を保っているかは非常に怪しいので、やはりこれまで通り老後の備えはきっちり計画的に行うというのが王道なのだろうと考えられます。
生活保護のカバーエリアがあまりに広すぎるので、今後は対象者に合った制度変更が妥当ではないでしょうか。例えば、高齢世帯に関してはこれまでのような現金支給ではなく、ミールクーポンや商店街の商品券など地域振興にもつながるクーポン支給などが検討されて然るべきではないかと思われます。このままでは年金を真面目に支払っている国民の公平性が保たれず、年金制度含めて不信感がますます増長してしまいます。国会議員の皆様方には是非とも活発な議論を期待したいところです。