おひとりさまの公的年金入門〜計画的に着実に老後資産の形成を図ろう〜
はじめに
「国民皆保険」制度のもと、日本国民のすべての人が何らかの保険に加入しています。ただし、少子高齢化を背景として、日本の社会保障財政はひっ迫しています。そのため、若年層を中心に将来の年金受給額の目減りが懸念されているのが現状です。
そこで今回は、私たちが老後生活を安心・安定して暮らすための、大切な公的年金について、その基礎的な知識から、しっかりと老後資産を形成していくための処方箋まで、分かりやすく解説していきます。
公的年金の仕組みを知ろう
まず、公的年金制度の仕組みや特徴をおさらいしましょう。
国民年金や厚生年金など公的年金は、自分自身や家族の加齢、障害など様々なリスクに直面した際に、自立した生活を送ることが困難となる可能性があるため、個人だけでなく世代を超え、社会全体で老後の生活を支えていく制度です。
現行の公的年金制度は、今現在、働いている人たちが保険料を負担し、その時々の高齢者が年金を受けとる仕組み(賦課方式)を運営の基本としています。近年、日本では急速な勢いで少子高齢化が進み、世代間の負担と給付のバランスが崩れ始めているのも事実です。そのため、政府は給付水準を適切に調整する仕組み(マクロ経済スライド)を導入し、およそ100年間という長期にわたる給付と負担のバランスが取れるスキームとすることで、公的年金制度を中長期に持続可能な安心できるものとするよう努めています。
そして、公的年金制度は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金と、会社に勤務する人が対象の厚生年金、公務員や私立学校職員などが対象の共済年金の3種類があります。この公的年金制度を建物と見立てて、国民年金をすべての人の基礎となる1階部分とし、厚生年金や共済年金を2階部分とする、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。
国民年金
公的年金制度の1階部分である国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「基礎年金」となります。国民年金は3種類に分けられ、自営業者などの第1号被保険者、厚生年金保険適用事業所に勤務する人(いわゆるサラリーマン)は第2号被保険者、そして第2号被保険者の配偶者で20歳以上60歳未満の人は第3号被保険者となります。老齢や障害、死亡により年金を受け取ることができます。
厚生年金・共済年金
次に公的年金制度の2階部分である厚生年金・共済年金は、会社員や公務員を対象としています。公務員に関しては、従来共済年金として厚生年金とは別個でしたが、2015年10月の法改正により、厚生年金との統一が図られました。そして厚生年金は、基礎年金である国民年金に加えて、厚生年金を受け取ることができます。
厚生年金に関しては、適用事業所や被保険者などについてもう少し詳しく解説します。なお、それぞれの年金に加入する人のことを被保険者と呼びます。
厚生年金は事業所単位で適用され、株式会社などの法人の事業所や、従業員が常時5人以上いる個人の事業所も強制加入となります(農林漁業、サービス業などを除く)。また、従業員数が4人以下の場合や農林漁業など一部の業種でも、従業員の半数以上が厚生年金に加入することに同意する場合には、事業主が申請をすることにより、任意で加入することもできます。
そして厚生年金の被保険者については、厚生年金適用事業所で常時使用される70歳未満の人は、国籍や性別などに関係なく、厚生年金の被保険者となります。また、パートタイマー・アルバイトなどでも、1週間の労働時間や1ヵ月の労働日数が一般社員の4分の3以上である人は被保険に該当します。
加えて、労働時間や労働日数が一般社員の4分の3未満であっても、下記の条件をすべて満たせば被保険者の対象となります。
@週の労働時間が20時間以上であること
A雇用期間が1年以上見込まれること
B賃金の月額が8.8万円以上であること
C学生でないこと
D常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること
一方で、下記の人たちは、基本的に厚生年金の被保険者と見なされません。
@日々雇い入れられる人
A2か月以内の期間を定めて使用される人
B所在地が一定しない事業所に使用される人
C季節的業務(4ヵ月以内)に使用される人
D臨時的事業(6ヵ月以内)の事業所に使用される人
そして次項からは、私たちが納める年金保険料と受取額について確認していきましょう。
公的年金の支払い・受取額を知ろう
まずは公的年金の負担から整理しましょう。
国民年金保険料
国民年金保険料は、平成30年度は月額16,340円となっています。まとめて前払いすると割引を受けることができるほか、平成29年4月より、現金・クレジットカードでの2年前納も可能となりました。
なお国民金保険料は、その全額が「社会保険料控除」の対象となり、所得税・住民税を節税することができます。自営業のような年末調整を行わない人は、確定申告することで所得控除を受けることができますので、忘れずに確定申告をしましょう。
一方で、経済的に苦しい生活をおくっていて、国民年金保険料の支払いが難しい場合、納付の催促・督促などに対し何も対応していないと、最終的に財産を没収される可能背もあります。そのようなときは、保険料納付が困難な人のための制度である、保険料免除制度や保険料納付猶予制度などを活用してください。
厚生年金保険料
次に厚生年金保険料は、会社員や公務員などが毎月受け取る給与とボーナスに対する定率の保険料を、会社と本人が半分ずつ折半して負担します。
厚生年金の保険料率は、年金制度改革により平成16年から段階的に引き上げられてきましたが、平成29年9月で引き上げが完了し、それからは18.3%に固定されています。具体的な計算方法は、毎年4月から6月の給与をもとに算出された標準報酬月額とボーナスに対して保険料率である18.3%を掛けて計算されます。そのため、4月から6月が繁忙期で残業代などが多く支給される人たちは、厚生年金保険料の支払いが多くなってしまいますが、その分年金としてもらえる分も多くなる仕組みとなっています。
また、会社員や公務員が受取る給与をもとに算出された標準報酬月額を用いて、厚生年金の保険料額を算出することができます。平成29年9月分からの厚生年金保険料額表が、日本年金機構のホームページに掲載されていますのでご参照ください。
もしくは、年金制度の運営窓口となる年金事務所から毎月事業主へ送られてくる納入告知書などでも、厚生年金の保険料額を確認することができます。
ここからは、足元の公的年金の受取額をお伝えします。
公的年金の受取額
平成28年度末現在、国民年金から受け取れる年金の平均月額は5万5千円となっています。また、民間企業の会社員などが対象となる第1号厚生年金の場合、受け取れる年金の平均月額は、14万6千円となっています。
なお国民年金に関しては、年金を受け取れる資格を満たす期間が従来の25年から10年に短縮されていますので、ご自身の加入期間については「ねんきん定期便」などで確認してみてください。
これらの公的年金だけで果たして老後生活を安心して送れるのでしょうか。最近は「老後難見」という言葉が散見されるようになり、老後不安が懸念されています。
そこで、老後生活に必要な資金を確認しますと、夫婦2人で老後生活を送るのに必要と考えられる最低生活費は月額22万円、ゆとりある老後を考えている場合は35万円が必要という調査結果が出ています。
このことから豊かな老後を送るためには、公的年金に加えて、何らかの方法で老後資産を築いていく必要があるといえるでしょう。そこで次項では、公的年金のプラスアルファとなる老後の資産形成方法として、iDeCoをご紹介します。
iDeCoでプラスアルファの年金をつくろう!!
iDeCoは豊かな老後生活を送るための資産形成を図る私的年金制度です。これまでお伝えした年金とは違い、強制加入ではありません。そのため、iDeCoでは自分自身でお金を拠出し、自分でその掛金を運用することになります。そして原則、60歳以降になったら、これまでの積み立て資産を受け取ることができます。
iDeCoの掛金は5,000円以上1,000円単位で拠出することができるため、家計と相談しながら少額から始めることができます。
そしてiDeCoの最も大きな特徴の1つが、積立時・運用時・受取時の3つの場面で節税メリットがあることでしょう。
まず積立時には、拠出した掛金の全額が所得控除の対象となり、所得税・住民税を節税することができます。職業などによって拠出限度額がありますが、拠出金が多ければその分節税効果も大きくなります。
次に運用時には、投資信託の分配金や譲渡益などに通常20.315%課税されますが、iDeCoを活用することで、この税金が非課税扱いとなります。
たとえば、iDeCoで投資信託に投資をして40,000円の利益を稼げたとします。通常ですと8,126円の税金がかかり、手元には31,8747円しか残りません。そこでiDeCoを活用することで、税金分がそのまま手元に残り、稼いだ40,000円を再投資にまわすことも可能となります。
そして受取時にも節税メリットがあります。iDeCoでは原則60歳以降にこれまで積み立て資産を、年金や一時金として、もしくはそれらを併用することによって受け取ることができます。
年金として受け取る際には、公的年金等控除の対象となり、65歳未満だと公的年金などの収入が70万円まで、65歳以上だと120万円まで非課税となります。
一時金として受け取る際には、退職所得控除の対象となります。控除額の計算方法は下記の通りです。なお、iDeCoでは拠出金の積立期間を勤続年数と呼びます。
勤続年数(積立期間)が20年以下 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は、80万円)
勤続年数が20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
たとえば、勤続年数が20年の場合、退職所得控除額の800万円まで税金がかからないことになります。
最後となりますが、これまで公的年金制度の基礎的な知識から、プラスアルファの年金としてiDeCoをご紹介してきました。
現在は、自助努力で老後資産を形成していく必要がある時代に突入しています。老後生活の基盤となる公的年金に加え、豊かな老後を送るためにも、もう一つの「じぶん年金」をつくり、老後資産をしっかり形成していきましょう。
《出典》
日本年金機構 公的年金の種類と加入する制度
厚生労働省 公的年金制度の概要
内閣府 高齢化の状況
厚生労働省年金局 厚生年金保険・国民年金事業の概況
生活保険文化センター 生活保障に関する調査
国民年金基金連合会 iDeCo公式サイト