平均年収別の老後試算について
厚生年金や国民年金は、老後の生活を支える大事な収入源です。将来自分はどのくらいもらえるだろうかと気になりませんか。
年金だけで生活できないとなれば、不足分を補うための貯蓄が必要です。
厚生年金や国民年金の受給額、そしておひとりさまの老後の生活に必要となる貯蓄目安を平均年収300万円、400万円、500万円、600万円、700万円それぞれのパターンでご紹介します。
老齢厚生年金をどのくらいもらえるか
収入によって厚生年金受給額が変わるわけ
会社勤めをしていると、老後に厚生年金を受給できます。
厚生年金の受給額は、現役世代のときに収入が多かった人ほど多くなる仕組みとなっています。
厚生年金の保険料は収入(平均標準報酬額)によって変わり、毎月の収入の18.3%(2017年末時点)と決められています(ただし上限があり、計算上の平均標準報酬額最高額は62万円)。半分は会社が払ってくれるため実質的には半分の9.15%を払います。保険料が多い分、もらえる年金も多くなるということです。
出典:厚生労働省 いっしょに検証!公的年金
日本年金機構 厚生年金保険料額表
厚生年金の保険料には国民年金(老齢基礎年金)分も含まれているため、厚生年金の保険料を払っている人は、将来厚生年金と国民年金の両方をもらえます。
ねんきん定期便に記載される金額とは
収入に応じた厚生年金保険料を払い続けると、将来どのくらいの厚生年金をもらえるでしょうか。
50歳以上の人を除き、日本年金機構から届く「ねんきん定期便」には60歳まで働いたと仮定した受給見込額が記載されていません。そのため、50歳未満の人は最終的に厚生年金をどのくらいもらえるのか具体的にイメージできないのです。
ねんきん定期便に記載される金額の違い
50歳未満:これまでの加入実績をもとに計算された老齢年金額(厚生年金+国民年金)
50歳以上:これまでと同じ条件で60歳まで加入したと仮定した老齢年金見込額(厚生年金+国民年金)
ただし、50歳以上の人であっても「ねんきん定期便」に記載される金額は見込額にすぎません。働く状況が変われば実際の受給額は変わります。
ねんきんネットで年金見込額を試算できる
ねんきん定期便には見込額が記載されていないものの、50歳未満の人でも見込額を簡単に試算できる方法はあります。日本年金機構が提供するサービス「ねんきんネット」に登録すると、将来受け取れる老齢年金を試算できるのです。
「ねんきんネット」の登録には、基礎年金番号とメールアドレスが必要です。現在の職業をそのまま続けると仮定して試算する方法のほか、今後の職業や収入、働く期間などの条件を入力して試算する方法もあります。
年収別の厚生年金・国民年金受給額
おおよその目安が知りたい
「ねんきんネット」に登録するのは面倒、大体でいいから厚生年金の受給額の目安を知りたい、という人のために厚生年金受給額の計算式を簡略化してご紹介していきましょう。
【厚生年金受給額の計算式】
平均標準報酬月額×生年月日に応じた率(*1)×2003年年3月までの加入月数+
平均標準報酬額×生年月日に応じた率(*2)×2003年年4月以降の加入月数
2003年4月以降はボーナスを含めるようになりました。そのため、平均標準報酬月額でなく平均標準報酬額を使用するようになっています。
生年月日に応じた率につき、1946年以降生まれの人の場合は下記となります。
*1:7.125/1000
*2:5.481/1000
(ただし7.500と5.769で計算する従前額保障方式もあり、どちらか高い方となる)
出典:日本年金機構 老齢年金
40年間働いた人の厚生年金受給額
上記計算式で厚生年金受給額を計算するために
平均標準報酬額×5.481÷1,000×被保険者月数
を使っていきます。さらに簡略化したものが下記です。
年収×5.5÷1,000×被保険者年数
早速、各年収ごとの金額を計算していきます。
厚生年金加入期間を40年間と仮定します。
【厚生年金受給額の目安(年額)】
平均年収300万円の場合:300万円×5.5÷1,000×40年=66万円/年
平均年収400万円の場合:400万円×5.5÷1,000×40年=88万円/年
平均年収500万円の場合:500万円×5.5÷1,000×40年=110万円/年
平均年収600万円の場合:600万円×5.5÷1,000×40年=132万円/年
平均年収700万円の場合:700万円×5.5÷1,000×40年=154万円/年
これを月額に直します。
【厚生年金受給額の目安(月額)】
平均年収300万円の場合:5.5万円/月
平均年収400万円の場合:約7.3万円/月
平均年収500万円の場合:約9.2万円/月
平均年収600万円の場合:11万円/月
平均年収700万円の場合:約12.8万円
40年間保険料を納めた人の国民年金(老齢基礎年金)受給額
国民年金が満額受給(20歳から60歳まで40年間保険料を納めた場合)されると仮定し、先ほど計算した厚生年金受給額にプラスしていきます。
老齢基礎年金満額は779,300円/年(2018年4月分〜)であり、月額にすると約6.5万円です。
【厚生年金受給額と国民年金受給額を合わせた金額】
平均年収300万円の場合:5.5万円+約6.5万円=約12万円/月
平均年収400万円の場合:約7.3万円+約6.5万円=約13.8万円/月
平均年収500万円の場合:約9.2万円+約6.5万円=約15.7万円/月
平均年収600万円の場合:11万円+約6.5万円=約17.5万円/月
平均年収700万円の場合:約12.8万円+約6.5万円=約19.3万円
比較のために、年収別の現在の手取り月額目安もご紹介しておきます。
年収300万円の人の手取り月額:約20万円
年収400万円の人の手取り月額:約26万円
年収500万円の人の手取り月額:約32万円
年収600万円の人の手取り月額:約38万円
年収700万円の人の手取り月額:約44万円
老後も現役時代と変わらない生活レベルを維持したいと考える人には、それ相応の貯蓄が必要となるのです。
老後のために必要となる費用はどのくらい?
20年間の年金生活を想定して試算
おおよその老齢年金受給額がわかったところで、老後に必要となる費用を算出しましょう。家賃の必要な家に住んでいるかどうかなど、人によって支出額が異なるという前提はありますが、平均支出をもとに考えていきます。
2017年の統計(総務省家計調査報告)による高齢単身無職世帯の消費支出額は、およそ14.2万円。先ほど算出した老齢年金受給額との差額は下記のとおりです。
平均年収300万円の場合:−2.2万円/月
平均年収400万円の場合:−0.4万円/月
平均年収500万円の場合:+1.5万円/月
平均年収600万円の場合:+3.3万円/月
平均年収700万円の場合:+5.1万円/月
出典:総務省 家計調査報告(家計収支編)
収支がマイナスとなる平均年収300万円と400万円の人の不足分を20年間分で計算します。
平均年収300万円の場合:2.2万円×12カ月×20年間=528万円
平均年収400万円の場合:0.4万円×12カ月×20年間=96万円
今回は消費支出をもとに計算しましたが、老後にも非消費支出である国民健康保険料や介護保険料といった社会保険料がかかります。保険料は収入(年金分含む)や市町村によって異なりますが、収入の10%程度はかかると考えておくとよいでしょう。
所得税や住民税は、公的年金等の収入金額合計額が120万円までであればかかりません。
出典:国税庁 公的年金等の課税関係
60歳から65歳までの生活費も問題
老後の生活費を考えるとき、年金の受給開始年齢が65歳であるという問題も忘れるわけにはいきません。60歳の定年後、新しい仕事につかず、年金の繰り上げ受給もしない場合、65歳までの間の生活費を貯蓄で賄わなければならないのです。
繰り上げ受給とは60歳から64歳の間に繰り上げて年金を受給できる制度のことですが、繰り上げを行うと受給額が減ってしまいます。
5年間の生活を貯蓄で賄うと仮定すると、下記の金額が必要です。
14.2万円×12×5=852万円
先ほど算出した生活費不足分と合わせてみましょう。
平均年収300万円の場合:528万円+852万円=1,380万円
平均年収400万円の場合:96万円+852万円=948万円
この金額に社会保険料負担も上乗せされます。将来への備えが必要である現実を感じずにはいられませんね。収入が下がるとしても会社の継続雇用制度を利用してなるべく長く働くなど、生活費の不安を軽減するための生き方を検討しておくとよいでしょう。働く意志があるなど一定の条件を満たせば、定年退職後でも失業手当(基本手当)を受給できます。
転職などを考えている人のケースについて
厚生年金の加入期間が少なくなった場合
何らかの事情により、仕事を早くやめたい、しばらくのんびり過ごしたいと考えている人もいるのではないでしょうか。
個人的な理由で仕事をやめ、厚生年金の加入期間が10年分減ったケースを考えてみましょう。
傷病手当をもらうような状況ではなく、あくまでも個人的な理由で仕事をやめた場合の試算です。また、貯蓄などで対応し国民年金保険料は払い続けたものと仮定します。
【厚生年金受給額の目安(30年加入の場合:年額)】
平均年収300万円の場合:300万円×5.5÷1,000×30年=49.5万円/年
平均年収400万円の場合:400万円×5.5÷1,000×30年=66万円/年
平均年収500万円の場合:500万円×5.5÷1,000×30年=82.5万円/年
平均年収600万円の場合:600万円×5.5÷1,000×30年=99万円/年
平均年収700万円の場合:700万円×5.5÷1,000×30年=115.5万円/年
上記を月額に直し、国民年金分をプラスします。
【老齢年金受給額の目安(30年加入の場合:月額)】
平均年収300万円の場合:約4.1万円+約6.5万円=約10.6万円/月
平均年収400万円の場合:5.5万円+約6.5万円=約12万円/月
平均年収500万円の場合:約6.9万円+約6.5万円=約13.4万円/月
平均年収600万円の場合:約8.2万円+約6.5万円=約14.7万円/月
平均年収700万円の場合:約9.6万円+約6.5万円=約16.1万円/月
この場合、年収500万円の人でも老後の平均消費支出と比べてマイナスの金額となってしまいます。
転職して収入が下がる場合
転職したいと思いながら、収入が下がるデメリットに不安を感じている人もいるのではないでしょうか。その場合、将来もらえる年金受給額が下がる点にも考慮が必要です。
別の見方をすれば、貯蓄をしっかりしておくと見通しを持った状態で転職を検討できるということになります。
平均年収500万円、600万円、700万円の人が20年間働いた後に年収300万円の仕事に転職し、さらに20年間働いたと仮定した場合の受給額は下記のとおり。
平均年収500万円(20年間)→平均年収300万円(20年間)
55万円/年+33万円/年=88万円/年
約7.3万円+約6.5万円=約13.8万円/月
平均年収600万円(20年間)→平均年収300万円(20年間)
66万円/年+33万円/年=99万円/年
約8.3万円+約6.5万円=約14.8万円
平均年収700万円(20年間)→平均年収300万円(20年間)
77万円/年+33万円/年=110万円/年
約9.2万円+約6.5万円=約15.7万円/月
この場合においても、もともと年収500万円だった人は老後の平均消費支出と比べたときにマイナスとなってしまいます。
今回ご紹介した金額はあくまでも概算です。また、85歳までと想定して試算しており、もっと長生きするケースも十分考えられます。そのため、おおよその目安にしかなりませんが、老後の生活のための貯蓄額目標や現在の暮らし方の検討に役立ててみてください。
より自身の状況に合わせた試算を行いたい人には、日本年金機構の「ねんきんネット」利用をおすすめします。
ライター
琴子
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP。
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