おひとりさまのマネープラン入門〜iDeCoで老後資産を形成しよう〜
はじめに
現在、日本は急激に進む少子高齢化を背景として公的年金制度の基盤が揺らぎ、老後不安から「老後難民」という言葉も飛び交うようになっています。また今は、超低金利の時代でもあり、銀行にお金を預けていても、資産が増えていくことを期待することができないのが現状です。
そして、政府が掲げる「貯蓄から投資へ」のスローガンのもと、いま、国民は自助努力によって資産形成を行っていくことが求められています。
そのような社会情勢のなか、2017年1月から、基本的に60歳未満のすべての人がiDeCoに加入できるようになりました。
そこで今回は、豊かな老後を送るためのiDeCoの活用に関して、その経済的・社会的な背景をざっくりと把握するとともに、iDeCoの仕組みや活用する際の注意点などを詳しく解説していきます。
日本の経済社会情勢を把握しよう
なぜ、豊かな国であったはずの日本で、国民自らが老後資産の形成を行わなくてはならなくなってしまったのでしょうか。まずはその疑問に答えるべく、現在の日本が置かれた経済・社会情勢を簡単に把握していきましょう。
まず、今の日本には老後不安がつきまとっています。急速に進む高齢化により、社会保障費は膨れ上がり国の財政を圧迫しています。皆さんが受取る年金は減額される可能性がある一方、生活コストは大きく変わらない見込みです。そのため、公的年金だけでは豊かな老後を送ることは難しくなっているといえるでしょう。
事実、次のデータをご覧いただければ、より具体性を持たせることができるでしょう。
平成28年度末現在、国民年金から受け取れる老齢年金の平均月額は5万5千円となっています。また、民間企業の会社員などが対象の厚生年金(第1号)から受け取れる年金の平均月額は、 14 万6千円となっています。
一方で、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられる最低の日常生活費は月額22万円、ゆとりある老後を送る場合は35万円が必要という調査結果が出ております。豊かな老後を送るためには、国民年金や厚生年金といった公的年金に加えて、自助努力で老後資産を形成していくことが必要であることが伺えるでしょう。
また現在は、日本の金融システムを司る日本銀行が経済を下支えするため超低金利政策を実施しています。そのため銀行の預金金利も歴史的な低水準となっています。例をあげますと、メガバンクのひとつである三菱UFJ銀行の普通預金の金利は年0.001%です。仮に1,000万円を預金したとしても、年間100円の利息しかつきません。
豊かな老後を送るためには、公的年金に加えて何らかの資産運用が必要となってきますが、銀行の普通預金では、着実な老後資産の形成は期待できないといえるでしょう。収入が増えていくことが難しい会社員だけでなく、退職手当や年金が減額される公務員などにとっても、否が応でも自助努力で老後資産を形成していく必要に迫られています。
そこで、今回おすすめする資産運用手段がiDeCoです。次項からその特徴などを詳しく解説していきます。
iDeCoの特徴を知ろう
豊かな老後資産を形成していくための資産運用手段として、iDeCoはまさに打ってつけの金融商品です。
iDeCoは自助努力によって資産形成を図る私的年金制度です。そのため、自分でお金を拠出し、自らその掛金を運用します。そして原則、60歳以降にこれまで積み立てた資産を自ら受け取る仕組みとなっています。
iDeCoは強制加入ではなく、あくまで任意加入の制度であり、国民年金や厚生年金のように、国や企業が運用を皆さんに代わって行ってくれるわけではありません。自分で運用する商品も決めていくことになります。
そして、iDeCoの最大のメリットは、積立時・運用時・受取時の3段階での節税効果を得られることです。
まず積立時には、皆さんが支払う掛金の全額が所得控除の対象となり、所得税・住民税を節税することができます。そのため、収入にもよりますが、掛金が多ければその分高い節税効果を得られることになります。
次に運用時には、通常、定期預金の利子や投資信託の譲渡益などにかかる20.315%の税金がかかりません。
たとえば、iDeCoで投資信託に投資をして20,000円の利益をあげたとします。通常ですと4,063円の税金がかかり、手元には15,937円しか残りませんが、iDeCoは非課税のため20,000の利益がそのまま残ります。また、非課税で浮いた分を再投資に回せば資産が大きく増えていく可能性もあります。
そして3段階目の受取時にも税制優遇があります。iDeCoでは原則60歳以降に積み立てきた資産を、年金や一時金として、もしくはそれらを併用することで受け取ることができます。
年金として受け取る場合は、公的年金等控除の対象となり、65歳未満だと公的年金などの収入が70万円まで、65歳以上だと120万円まで非課税となります。
一時金として受け取る場合は、退職所得控除の対象となります。控除額の計算方法は下記のようになります。なお、iDeCoでは拠出金の積立期間を勤続年数と呼びます。
勤続年数(積立期間)が20年以下 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は、80万円)
勤続年数が20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
たとえば、勤続年数が30年の場合、退職所得控除額の1,500万円まで税金がかからないことになります。
また、iDeCoの掛金は5,000円以上1,000円単位で拠出することができ、少額から始めることができます。また職業などによって拠出限度額が定められています。具体的には下記の一覧表をご覧ください。
対象者 | 拠出限度額/月 |
---|---|
自営業 | 6.8万円 |
公務員 | 1.2万円 |
会社員(企業型DCあり) | 2.0万円 |
会社員(確定給付型年金) | 1.2万円 |
会社員(企業年金なし) | 2.3万円 |
専業主婦の夫 | 2.3万円 |
これまでiDeCoの特徴をお伝えしてきましたが、次項からはiDeCoを始めるにあたり注意すべき点、3点を確認していきましょう。
iDeCoの注意点を知ろう
まずiDeCoに加入するときには、iDeCoの運営窓口となる金融機関を自分自身で選ぶことになります。そして、毎月金融機関に「運営管理手数料」という口座管理料を支払います。この運営管理手数料は金融機関によって異なってきており、低いところですと月額167円とするところもあれば、500円以上するところもあります。
iDeCoは老後資産の形成を目的とするため、資産運用も長期にわたります。そのため、このようなコストは極力低く抑えることが望ましいでしょう。ぜひiDeCoの金融機関選びの一つの物差しとしてみてください。
また注意すべき点の2点目として、iDeCoは、基本的に60歳まで積み立ててきた資産を受け取ることはできません。そのため、急遽子供の教育費に充てたいとか、海外旅行資金にまわしたいといっても、途中解約して資金を引き出すことはできないので注意しましょう。
ただしこの点に関しては、裏を返すと、60歳までお金を引き出せないわけですので、貯蓄が苦手な人にとっては、計画的に老後資産を形成していける仕組みになっていると捉えることもできるでしょう。
そして注意点の3つ目は、iDeCoの最大のメリットの1つである拠出時の所得控除を受けるために、確定申告の手続きを行う必要となる人がいらっしゃいます。
会社員や公務員の場合、基本的に勤務先企業が年末調整を行うことにより、iDeCoの所得控除を受けるための手続きは終了となります。
一方で自営業者などは年末調整がないため、確定申告をすることで所得控除を受けることができるようになります。
ざっくりとした手続き方法をお伝えしますと、iDeCoの運営を司る国民年金基金連合会から毎年10月から11月くらいに「小規模企業共済等掛金払込証明書」が送られてきます。この証明書には、その1年間にご自身支払った拠出合計金額が記載されています。なお、iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」という項目で所得控除を受けることになりますので、しっかりと覚えておきましょう。
そこで、税務署から取り寄せた確定申告書の小規模企業共済等掛金控除の項目に、その年の拠出合計金額を記載します。そして、必要事項を記載した確定申告書と小規模企業共済等掛金払込証明書を管轄の税務署へ提出することにより終了となります。
なお、手続きに関して不明な点は、最寄りの税務署などで確認して、正確に確定申告書を作成しましょう。
iDeCoを活用して老後資産を形成しよう!!
これまでiDeCoが求められる経済的・社会的な背景から、iDeCoの特徴や注意点を整理してきました。
そしてここからは、iDeCoの具体的な始め方やちょっとしたポイントをご紹介していきます。
口座開設自体はインターネットから資料を取り寄せ、必要事項を記載のうえ返信する流れとなります。なお国民年金基金連合会での加入資格などの審査もあり、手続き完了まで2ヶ月ほどかかる場合もあります。また、iDeCoを始めるうえで手続き上のポイントを3点お伝えします。
@金融機関を決める
まずはiDeCoに加入する際、自分自身で金融機関を選択します。先ほどお伝えしました通り、「運営管理手数料」が低いところで、費用を抑えて始めましょう。
A拠出する金額を決める
次に拠出する金額は、家計と相談して無理のない範囲で継続させることに主眼をおきましょう。
B運用する商品を決める
そして、金融機関によって購入できる運用商品も異なってきます。一般的に、元本確保型の定期預金や積極的にリスクをとりにいく株式投資信託など幅広いタイプの商品が取り揃えられています。ただし金融機関によっては、数種類のみ商品を提供しているところもありますので、金融機関を決める際にあわせて確認しましょう。
なお、急に自己責任で資産運用をすることに不安がある人は、申し込みの金融機関にどのように運用商品を選んでいけばよいかアドバイスをもらうようにしてください。
最後となりますが、iDeCoのメリット・注意点をしっかりと把握したうえで、豊かな老後を送るための資産形成を図るべく、iDeCoを存分に活用していきましょう。
《出典》
内閣府 平成29年版高齢社会白書(概要版)
厚生労働省年金局 平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
生活保険文化センター 平成28年度 生活保障に関する調査 《速報版》
三菱UFJ銀行 円預金金利
国民年金基金連合会 iDeCo公式サイト
iDeCoナビ 個人型確定拠出年金ナビ