退職後の健康保険はどうすればよいですか?
会社で働いているときは当たり前のように使っていた会社の健康保険。しかし、転職やリタイヤメントなどで会社を退職したときは、会社員時代とは違うほかの健康保険に加入することになります。その際、どういう健康保険の選択肢があるのか、どの健康保険に加入するのがおトクなのかなど退職後の健康保険について詳しく解説します。
会社を退職したときの健康保険の選択肢は3つ
転職で会社を退職する場合は、すぐに転職先の会社の健康保険に加入することになるので、あまり問題はないでしょう。しかし、すぐに転職・再就職をしない場合や自営業者となる場合、健康保険の選択肢は次の3つになります。
@ 会社員の家族の健康保険に被扶養者として加入する
A 退職した会社の健康保険の任意継続を利用する
B 国民健康保険に加入する
@の方法は家族にも自分にも保険料の追加負担がないため一番経済的な方法です。しかし、被扶養者になれる家族の範囲や収入要件などの条件を満たさなければなりません(条件は後述)。@に加入できない場合は、AかBのうち、保険料の自が安い方を選ぶことになります。
一般には、退職した年はAの任意継続保険料の方が安く、収入が減った(またはなくなった)翌年からはBの国民健康保険料の方が安くなるケースが多いです。Aの保険料は会社の健康保険を管轄している窓口(健康保険組合や協会けんぽ)にきけば教えてもらえます。また、Bの健康保険料はお住まいの市区町村役場の国民健康保険窓口に問い合わせれば教えてくれます。必ず保険料を確認してから、AにするかBにするかを決めましょう。
会社員の家族の健康保険に被扶養者として加入する場合の注意点
家族の勤務先の健康保険に被扶養者として加入できれば、家族も自分も保険料を払う必要がないため一番安くつきます。しかし、以下のような条件があるため、おひとりさまにとってはハードルが高いかもしれません。
被扶養者となれる家族の範囲
- 扶養者によって生計を維持されている直系尊属(父母・祖父母・曾祖父母など)、配偶者(事実婚含む)、子、孫、弟妹、兄姉(同居・別居は問わない)
- 扶養者によって生計を維持されている3親等以内の親族(曽孫、伯父伯母・叔父叔母、甥・姪)(同居していること)
- 扶養者の配偶者(事実婚含む)の父母と子(同居していること)
収入要件
<同居の場合>
- 被扶養者の年間収入が130万円未満(60歳以上・障害者の場合は180万円未満)
- 扶養者の年間収入の2分の1未満であること
かつ
<別居の場合>
- 被扶養者の年間収入が130万円未満(60歳以上・障害者の場合は180万円未満)
- 扶養者からの仕送り額よりも少ないこと
かつ
収入要件に関する注意点
ここでいう「年間収入」とは、過去の収入や、1年を通した収入合計のことではなく、退職後の見込み収入が年額130万円未満であることをいいます。月額では108,333円以下、失業保険などの日額では3,611円以下です。
被扶養者の収入には失業保険や公的年金、健康保険の傷病手当金などもカウントされます。そのため、失業保険や傷病手当金などの給付を受けている間は家族の被扶養者とはなれず、任意継続や国民健康保険など、ほかの健康保険に加入しなければなりません。
手続き
「健康保険被扶養者(異動)届」の用紙のほか、必要書類を家族の勤務先に提出します。続柄確認のための証明書類と収入要件確認のための証明書類、別居家族の場合は仕送りの事実と仕送り額の証明書類などが必要です。必要となる証明書類はケースによって異なるため、家族の勤務先にしっかり確認しましょう。
退職した会社の健康保険の任意継続を利用する場合の注意点
退職した会社の健康保険の任意継続を利用する場合は、次の2つの条件を満たせば任意継続ができます。要件のハードルが低いため、任意継続を選ぶ人が多いです。
- 退職日までに保険加入期間が2か月以上あること
- 退職日の翌日から数えて20日以内に手続きをすること
もし退職後の健康保険で迷った場合、20日以内と期限がある任意継続にとりあえず申し込んでおくという手もあり、です。ほかの健康保険には明確な期限はありませんが、任意継続はのんびりしていると加入できなくなります。
手続き
手続きは所定の申請書を健康保険組合や協会けんぽに提出します。20日以内の期限に遅れないようにしましょう。健康保険組合・協会けんぽでの切り替え手続き後、任意継続被保険者用の健康保険証が送られてきます。
保険料
任意継続の場合の保険料は、会社負担分を自分で負担することになるため、今まで給与から天引きされていた保険料の2倍の額を支払うことになります。ただし、保険料には上限額があるため、2倍の金額を払わずにすむケースが大半です。
なお、保険料の支払いは、健康保険組合・協会けんぽが指定する方法で行います。一般に、毎月納付期限内に指定の金融機関口座に振り込む、納付書による支払い、口座振替などの方法が主流です。ちなみに、初回の保険料を期限内に支払わなかった場合は、任意継続被保険者にならなかったものとみなされます。
保険給付を受けられないケース
任意継続被保険者は、基本的に、在職中と同様のサービスを受けられます。窓口での自己負担も3割と変わりません。また、健康保険組合によっては独自の給付金を用意していることがあり、これらの給付金も受けられます。しかし、「傷病手当金」や、「出産手当金」は、在職中に給付要件を満たしていない限り、任意継続期間中に新規で受けることはできません。
加入期間
退職後2年間です。
ただし、次の場合は任意継続被保険者資格を失います。
- 就職してほかの健康保険の被保険者となったとき
- 後期高齢者医療の被保険者となったとき
- 保険料を納付期限までに支払わなかったとき
- 死亡したとき
※「国民健康保険に加入したい」「家族の健康保険の被扶養者になりたい」という理由では、途中で脱退することはできません。
※しかし、任意継続保険料を滞納すれば任意継続被保険者の資格を失うため、国民健康保険などに切り替えることが可能です(上の任意継続被保険者資格を失う場合のc.に該当)。ほめられた行為ではありませんが、困った場合はこの方法で任意継続を2年の途中で脱退することができます。
国民健康保険に加入する場合の注意点
国民健康保険は、皆保険制度の日本で、会社の健康保険などに加入できない人々をもれなくカバーしてくれます。そのため、加入要件らしい要件はなく、日本国内に住んでいて、ほかの健康保険制度に加入していない人や生活保護を受けていない人なら加入可能です。
手続き
以下の書類を持って市区町村役場の窓口に行けば、即日その場で国民健康保険証が発行されます。
- 会社の健康保険の被保険者でなくなったことを証明する「健康保険資格喪失証明書」
- 本人確認書類
- 世帯全員分のマイナンバー確認書類(個人番号カード、通知カード、マイナンバー記載の住民票など)
原則として、退職から14日以内に手続きをすることになっていますが、遅れても問題ありません。手続きが遅れても退職日の翌日から国民健康保険に加入した扱いになります。万が一、手続きをするまでに自己負担10割を払って病院で治療を受けたとしても、領収書を添付して申請すれば、国民健康保険が適用になる7割まで返金されます。
保険料
国民健康保険料は、収入や世帯の人数などに比例しています。収入が高く世帯人数が多いと保険料は高くなり、収入が低く世帯人数が少ないと保険料は安くなります。国民健康保険料を構成するのは次の4つの部分の部分です。
@ 所得割額 = (前年の所得金額合計−基礎控除33万円)× 料率※
A 資産割額 = 固定資産税額 × 料率※
B 均等割額 = 1世帯の国民健康保険加入者数 × 均等割額※
C 平等割 = 1世帯ごとの平等割額※
合計 = 1世帯当たりの年間保険料
※なお、@Aの料率、Bの均等割額、Cの平等割額が市区町村によって違うため、保険料は各地方自治体で金額が異なります。また、資産割額のない市区町村もあります。
合計の年間保険料を7月〜翌年3月にかけて分割で支払います。支払い方法は口座振替や納付書による支払いが一般的です。
前年の所得金額が低い場合の国民健康保険料の軽減制度
さて、前年中の所得が一定金額以下の場合は以下のように保険料が軽減されます。「収入がなくても生活できるだけの財産を築いた」「収入が低くても自給自足生活を送るから大丈夫」と会社をやめたおひとりさまにとっても利用価値大です。
<2018年度の場合>
前年中の世帯の所得 | 軽減率 |
---|---|
基礎控除の33万円以下 | 均等割・平等割が7割減 |
33万円+(27.5万円×被保険者数)以下 | 均等割・平等割が5割減 |
33万円+(50万円×被保険者数)以下 | 均等割・平等割が2割減 |
離職理由が倒産や解雇などの場合の国民健康保険料の軽減措置
これは勤務先の倒産やリストラ(解雇・雇止め・退職勧奨など)など、会社都合で離職せざるを得なかった人たちの保険料を安くして救済する措置です。この軽減措置に該当する場合は、前年の給与所得を3/10に換算して保険料を計算してくれます。
軽減対象期間は離職の翌日から翌年度末までです。例えば、離職日が2018年3月31日〜2019年3月30日の場合は、2018年4月分〜2020年3月分の国民健康保険料が軽減されます。覚えておいて損はない制度です。
健康保険料は月末に加入している健康保険の種類で決まる
最後に、適用される保険料が、退職した会社の健康保険料か、次に加入した健康保険の保険料かが決まるタイミングについてご説明します。その月の保険料は月末に加入している健康保険で決まります。
<ケース1>退職日が3月30日の場合
3月分は新しく加入する健康保険の保険料を支払う。
⇒ 月末の3月31日は次の健康保険に加入することになるため。
<ケース2>退職日が3月31日の場合
3月分は退職する会社の健康保険の保険料を支払う(労使折半)。
⇒ 月末の3月31日は退職する会社の健康保険にまだ加入しているため。4月分は4月30日時点で加入している健康保険の保険料を支払う。
<ケース3>退職日が3月31日、すぐ仕事が見つかり4月25日に次の会社に入社した場合
3月分は退職する会社の健康保険の保険料を支払い(労使折半)、4月分は新しい会社の健康保険の保険料を支払う(労使折半)。
⇒ 3月31日は退職する会社の健康保険にまだ加入しており、4月30日は新しい会社の健康保険に加入しているため。
しかし、3月末〜4月末に加入している健康保険の内訳は次のようになります。
- 〜3月31日:前の会社の健康保険に加入
- 4月1日〜4月24日:国民健康保険(または任意継続)に加入
※月末は含まれていないため国民健康保険料(や任意継続保険料)を支払う必要はない。
- 4月25日〜4月30日:新しい会社の健康保険に加入
したがって、退職日は月末以降に、次の会社への入社日は月末以前に設定した方が、まるまる自己負担の国民健康保険料や任意継続保険料を支払う月が減る分、おトクといえます。
まとめ
以上のように、会社を退職したあとの健康保険には3つの選択肢があり、それぞれ要件や保険料が異なります。また、退職日をいつにするかによって、保険料が変わるタイミングも違ってきます。会社を退職する場合は、タイミングを見計らって退職日を設定し、次に加入する健康保険をできるだけ早く決めて、退職後すぐに手続きを取るようにしましょう。